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「手前、良かったのかよ。」
「何が?」
貸してやった外套を羽織って血を隠した十六夜が振り向く。煌くような金髪が、外に出たせいで受けざるを得なくなった太陽光をキラキラと反射している。
「さっきの奴。」
少し口走れば、あぁ、と気のない相槌が返ってきた。如何でも良さそうな返事に驚いて横を見る。十六夜は前を向いたまま応えた。
「先に言っておくけど、俺は人は殺さないよ」
何だって、と問い返しそうになった。隣を歩く男の顔に冗談を言っている様子はない。平常通りの如何でも良さげな表情が浮かんでいるだけだ。
「何だよ。一昔前まで居た、あの下級構成員の思想にかぶれたとかか?」
「下級構成員?」
記憶の隅に居た男を挙げてみたが、十六夜は不思議そうにするだけだった。
「……知らねえのか」
「俺がマフィアに入ったの、一年前だから。ついでにいっておくけど、ずっと
「へぇ」
「あぁ、着いたよ。出戻りだね」
高層マンションの自動ドアを抜け、毛足の長い絨毯を踏んで廊下を歩く。
乗るように言われたエレベーターは、耳抜きが必要になるほどの速さで上昇した。来た時も思ったことだが、この男はやたら裕福な物件に住んでいるらしい。
「来ないの?」
玄関先で扉を開けて待っていた十六夜に返事を返し、上がらせてもらう事にした。
++++++++++++++
「またそのTシャツかよ!」
部屋に入って叫ぶ。
俺が入る前に着替え始めていた奴の周りにはTシャツ、Tシャツ、Tシャツ。
向こう三日はTシャツに追い掛け回される悪夢に魘されそうな量だ。
「ちゃんと違うやつだから。」
ひとつ取り上げて、血の付いた方を脱ぐ。汚れてしまった方は捨てるつもりか、腹部に残った自分の血を拭うと、造作なく床に放った。
俺はというと、一瞬目に入った腹の何処にも銃創が見当たらないことに妙な関心を覚えつつ、床に散らばるTシャツの海にただただ絶句する。
「どう見たって同じだろうが……何が違うって」
あ、文字か。
Tシャツの上にプリントされた文言が一枚一枚微妙に違うのだ。
『いなりずしになりたい』『ねむいのです』『ボケるのにも飽きてきました』『帰っていいですか』
どれも違うが、どれも迷走している。
帰りたいのは俺だ。痛くなってきた頭を抑え、さっさと片付けろ、と呟いた。
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オタク(プロフ) - スプラトゥーンww (2019年5月17日 12時) (レス) id: 4494596138 (このIDを非表示/違反報告)
夜(プロフ) - ここ読む人いるかは分からないんですけど、オチまでちゃんと考えてあるし更新は止まっていても作品の事は忘れてないですし生命活動も停止していませんので、あの、受かったら戻ってきて完結させます……ホント申し訳ないです。ていうか人生詰みそう。 (2018年12月15日 23時) (レス) id: 06629672db (このIDを非表示/違反報告)
夜(プロフ) - 祟璃さん» わたしと致しましても、早く続きを書いてお届けしたくてしょうがないんです。操×籠の方も見て下さっているんですね! あちらも3月からはどしどし書いていきますよ! 心踊るコメントありがとうございます。必ず戻ってまいりますので、今しばらくお待ちください(*^_^*) (2017年12月27日 16時) (レス) id: c74f413357 (このIDを非表示/違反報告)
夜(プロフ) - 祟璃さん» わぁ、ありがとうございます!! こんなに長らく音沙汰なく過ごしているのに、まだ覚えて待って下さるなんて! 今もこれを書き上げる意思は衰えておりませんし、此方に力を注ぐのも来年には叶いそうです。具体的には2月28を目標にしています。(嬉しすぎたので続く) (2017年12月27日 15時) (レス) id: c74f413357 (このIDを非表示/違反報告)
祟璃(プロフ) - 更新停止から復帰できることを願ってます…!!! 下のコメを見ましたが、個人的に十六夜君は誘い受けが似合うかなと思ってます( ニート受けっていいと思うんですよ( 操×籠の方の更新も待ってます!! (2017年12月26日 19時) (レス) id: 53235c3c55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Drastic1/
作成日時:2016年8月15日 22時