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通された首領執務室。
空調が自動で調節される室内は、廊下よりも僅かに温度が低い。
舶来品の机の上で手を組む首領の存在もまた、体感温度を下げる要因の一つであろう。……本来ならば。
「あぁ、待ってようエリスちゃん。このお洋服を着てくれるだけで善いんだよう。ホラこのフリフリのドレス、少しでいいから!」
厭がって逃げ回る幼女の後に付き纏って洋服を着せようとする救いようのない中年男性の姿など、有り得ないのだ。……通常ならば。
だがしかし、本来も通常も完全無視をキメる、このクールにクレイジーな男こそ、我がポートマフィアの首領なのである。頭の痛い話だ。
「厭よ!昨日も似たようなの持ってきたじゃないリンタロウ!」
「そんなつれない事言わずに〜、これ高価かったのだよぅ〜」
どのタイミングで咳払いを決め込めば良いのか。普通の人間なら(普通の人間はこんな場面にはそうそう遭遇しないだろうが)、判断に迷うところだろう。
だが此処は慣れ切った中原中也のことである。室内に入るや否や、状況を悟った目で首領、エリス嬢を一瞥し、何の問題もない日常風景を見る顔で「首領、指示通りに参りました」と一言。慣れとは恐ろしく、悲しいものである。
ちなみに十六夜はと云うと、普段通りに虚空を見ながら直立。仕事したくないなぁ、と横顔に書いてあった。すかさず隣から肘鉄がめりこむ。幹部である筈のこの男も、今や立派な苦労人であった。
「おぉ、善く来たねえ」
ここで初めて二人の存在が目に入ったらしい首領が、これまで幼女を追い回していたという不名誉な事実など無かったかのように、後ろ手に手を組んで机まで戻っていく。そして立場に相応しい威厳らしきものを醸しつつ、顔の前で指を組んだ。憤慨した様子のエリス嬢も、お絵かきに戻る。
「さて、何の話だったかな」
「……。」
「……。」
二人分の沈黙が流れる。首領はマイペースに思考を辿っていき、暫くしてからようやく手を叩いた。
「あぁ、思い出した。二人に任務だ。今度は調査ではなく暗殺が目的なのだけど___」
十六夜の視線が一瞬だけ首領の目に留まった。
中也が思い出す。此奴は殺しはやらない。そう自分で云っていた。
……どうする。
奴は何も言わない。黙っている。微笑を漏らして台詞を止めた。
「君は殺しはしないんだったね」
___嗚呼、と、筋書きを理解した。
この場は十六夜に罪状を突きつける為に設けられたのだ、と。
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オタク(プロフ) - スプラトゥーンww (2019年5月17日 12時) (レス) id: 4494596138 (このIDを非表示/違反報告)
夜(プロフ) - ここ読む人いるかは分からないんですけど、オチまでちゃんと考えてあるし更新は止まっていても作品の事は忘れてないですし生命活動も停止していませんので、あの、受かったら戻ってきて完結させます……ホント申し訳ないです。ていうか人生詰みそう。 (2018年12月15日 23時) (レス) id: 06629672db (このIDを非表示/違反報告)
夜(プロフ) - 祟璃さん» わたしと致しましても、早く続きを書いてお届けしたくてしょうがないんです。操×籠の方も見て下さっているんですね! あちらも3月からはどしどし書いていきますよ! 心踊るコメントありがとうございます。必ず戻ってまいりますので、今しばらくお待ちください(*^_^*) (2017年12月27日 16時) (レス) id: c74f413357 (このIDを非表示/違反報告)
夜(プロフ) - 祟璃さん» わぁ、ありがとうございます!! こんなに長らく音沙汰なく過ごしているのに、まだ覚えて待って下さるなんて! 今もこれを書き上げる意思は衰えておりませんし、此方に力を注ぐのも来年には叶いそうです。具体的には2月28を目標にしています。(嬉しすぎたので続く) (2017年12月27日 15時) (レス) id: c74f413357 (このIDを非表示/違反報告)
祟璃(プロフ) - 更新停止から復帰できることを願ってます…!!! 下のコメを見ましたが、個人的に十六夜君は誘い受けが似合うかなと思ってます( ニート受けっていいと思うんですよ( 操×籠の方の更新も待ってます!! (2017年12月26日 19時) (レス) id: 53235c3c55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Drastic1/
作成日時:2016年8月15日 22時