探偵達はカフェにいる【オリジナル】 (ページ5)

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スカーレットにミルクティーをページ5

　この店で一番仕入れているのは他でもない、砂糖だ。お菓子や料理を作ったりするのに砂糖が必要なのは勿論、とある甘党が当店の砂糖を消費しまくるからである。

「Aさーん、今日も来ましたよ～」
「いらっしゃいませ、スカーレットさん」

　それが彼女、スカーレット・ニューだ。現役大学生でありながら、推理小説家でもある１８歳。１０歳の頃から年齢を隠して雑誌で小説を書き、１４歳で賞を受賞、１５歳で単行本デビュー……確かこういう経歴だ。恵まれた才能を羨ましく思った時もあったが、課題をこなしながら小説の締め切りと戦い、探偵としても活躍する三足の草鞋を履いた生活を見てきた今はハッキリと言える。絶対に羨ましくない。

　現に彼女は締め切り間近になると、目の下に薄っすら隈を作りながら指をダカダカとキーボードに叩きつけている。生まれてこの方スランプになった事は無いらしいが、なんせ心理描写の細かさが売りなので、うんうんと唸りながら、それでもなお小説を書くその姿は、正直言って痛ましい。そんな彼女の脳を活性化させるのが、当店のミルクティーだ。

　新鮮な水を勢いよくやかんに注いで、熱々に加熱して、温めておいたティーポットにお湯を注ぐ。茶葉はお湯を入れる直前にポットへ入れる。出来上がったブラックティーをポットで蒸らしている間、ティーカップに熱湯を入れて３分くらい放置。お湯を捨てて低温殺菌のミルクをカップに入れて常温になるまで放置。これに濃い目に作ったブラックティーを注げば、美味しいミルクティーが完成だ。

　こんなに丁寧に作った自慢のミルクティー──に大量の砂糖を入れると、スカーレットさんの脳活性化ティーが出来上がる。その砂糖の量は尋常ではなく、カップの底に砂糖の粒子が残ってしまうくらいだ。なんてこった、飽和しているじゃないか。なんて嘆く事も出来ない、渋いマスターを目指している身としてはそんな事で嘆くわけにはいかないのだ。でもなあ、一回で良いから砂糖なしで飲んでほしい。

「お待たせしました、ミルクティーです」
「ありがとう、Aさん」

　ノートパソコンを取り出して、椅子を座りなおす。どうやら今日は小説の執筆のようだ。スカーレットさんの為にシュガーポットには沢山の砂糖を入れたから、快適に執筆できるはず……あれ！？

「スカーレットさん、砂糖は……？」
「今日は始めの一杯を砂糖なしで飲む事にしたんです。……うん、美味しいですよAさん！」

　ニカッと快活な彼女の笑みを見て、思わず頬が緩んでしまった。まだまだ渋いマスターには、なれなさそうだ。