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それから1年の間、私は彼に何度も手紙を書いた。
日記のようなつまらないその内容は 彼に宛てたもので間違いなかったのだが、それを彼が読むことは無い。
全て、封筒に入れて宛名を書いて 部屋の机の引き出しに入れる日々を過ごした。
あとは切手を貼ってポストに入れるだけがどうしても出来なかったのは、自信がなかったからだ。

世界で一番幸せになる、

幾度となく繰り返したその言葉はあまりにも重たく私の体内に残り続ける。
あの二通の手紙で、さよならと言われたような感覚を味わうはずだったのに 小さな希望が見え隠れしたせいで諦めも踏ん切りもつかない。受け手のいない空中ブランコのようだ。

そして私は、少しずつ大学を休むようになった。

どうすればいいのか分からなくなった。
いや、もう何年も前からそうだったのかもしれない。
ユンギさんに出会ったあの日から、私はどうしようもない人間になってしまっていたのかもしれない。

そんな、過去の自分への責任転嫁を繰り返しながら
何をするでもなく自堕落な生活を送る。

終わりにすることも嫌。
でももう、どう努力していいのかも分からない。
会いたいのに会う勇気がない。
手紙すらろくに書けないし、送れない。


「A、映画でも見に行かない?」

ある日、そんな調子の私を心配して友人がそう誘ってくれた。特段見たくも無い映画でも 友人の心配そうな顔に押し負け、久しぶりの外出を決めた私は 姿見に映る自分が高校時代の自分とは随分変わったことに気がついた。
これじゃ、彼とすれ違っても気づいてもらえないのも無理はない。
そう自嘲し、また暗い階段を一段降りた気がした。

街に出るのは本当に久しぶりだった。
日曜日の午後は人通りも多く、色んな匂いがした。
誰かのキツい香水の匂い、サラリーマンの汗の匂い、新しい洋服の匂い
混じり合う匂いと、ごちゃつく思考が相まって 背中にじわりと嫌な汗が滲んだ。

「ごめん、少し人酔いしたみたい」

そう素直に伝えると、友人は私を近くのベンチに座らせ

「水買ってくるから待ってて」

と足早にその場を後にした。
幸い、ベンチは木陰になっていて心地よかった。
目を閉じるとさわさわと葉っぱのなびく音がする。

暫くすると友人の足音だろう音が近づいてくる。

ああ。
なんだか懐かしい。
彼に初めて会った日も、こうして目を瞑って足音を聞いた。
なんて最高の思い出なんだ。

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K(プロフ) - ゆんぎそさん» コメントありがとうございます。お返事が遅くなってしまい申し訳ございません。嬉しいお言葉をありがとうございます、時間が無くなかなか書くことが出来ていませんが励みになります。本当にありがとうございました! (2022年1月28日 11時) (レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
ゆんぎそ(プロフ) - 泣きました。もう、久々に感動して泣きました。心が震える素晴らしい作品を読ませていただき、本当にありがとうございました。 (2021年11月30日 1時) (レス) @page27 id: 4741346bef (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - hanakoさん» コメントありがとうございます!言葉の美しさ…本当に嬉しいお言葉をありがとうございます。今私生活が少し忙しくなかなか更新できずいますが、ちゃんと書き切ろうと思っておりますので、またそちらの方もお読みいただけると幸いです。 (2021年11月12日 12時) (レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
hanako(プロフ) - 今まで読んだ中で1番言葉で表せない感動と言葉の美しさを感じました泣 本当にいい作品です ありがとうございます泣 (2021年11月11日 2時) (レス) @page27 id: e7d310b575 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - Suzyさん» コメントありがとうございます!とても嬉しいです、本当にありがとうございます。なかなか思うように描き進められなかったのですがそう仰って頂けて書き切ってよかったと思います。 (2021年10月26日 11時) (レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:K | 作成日時:2021年10月10日 8時

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