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―――――


男は無表情だった。
光のこもっていない瞳が私の顔を映す。


すごい勢いで喋っていたのに、突然黙った男に、私の理解力は追い付かない。
しばしの沈黙が場を包み、先に口を開いたのは男のほうだった。



「…貴方からの痛みも、貴方からの罵倒も、僕にとっては甘美な刺激。
喜んでお受けいたします。けど、けど…!僕を拒絶するのは…否定するのは!
いくら貴方でも…許しはしないッ!」



一体なんだと言うのだ。意味が分からない…
不安定な男の情緒に、こちらが呑まれてしまいそう。



「……あぁ!ごめんなさいっ…手首、痛かったでしょう?
貴方の綺麗な肌に痕でもついたら…けど、それもいいかもしれませんね…」


ねぇ、そうでしょう?

静かに笑いかける声からは、先程のような怒りは感じ取れない。
感情の起伏が激しい。



「僕だけの女神様…昼間の黒髪の男とはどういう関係で?随分と親しげでしたね…」


『…見てたの…?覗き見なんて、趣味の悪い…』



「僕のもの、という意味も込めてこのまま痕が残ってくれると嬉しいです。
はははっ…そうだ、僕も貴方のものです。僕にも痕を残して下さい。
貴方の所有物だという証を…!」


『…嫌。そんなものつけないし、この手首の赤みもいずれ引く。
私が貴方のものに?…冗談も休み休み言って。そんなの願い下げよ…!』



「…そんなに僕を怒らせたいんですか?貴方も人が悪い…。
けれど、そこもまた魅力的ですよ…橘さん。
僕の女神…どうか下のお名前もお聞かせくださいませんか?」



雷にうたれたような感覚だった。
いくら名字といえど、紛れもなくそれは私を指す名前であることに変わりはない。
溜まりに溜まった嫌悪感が、心臓の深いところで爆発した。



『気安く呼ばないでくれる。…ただでさえ女神だ何だと騒がれてるのに
これ以上うるさくされるのはごめんよ。貴方の下品な声はもう聞きたくない。
二度と蹴るなんて真似はしないし、貴方の家に行くっていう誘いにも乗らない。

……金輪際、私に関わらないで』



キッと睨み付ければ、案の定男は心ここに在らずというように茫然としていた。
睨んだだけではどうにもこのイライラは収まりそうにない。
平手打ちでも食らわしてやろうかと思ったが、その平手打ちも男は喜んでしまうのだろう。

やり場のない怒りで内臓が沸騰しそうだった。
その怒りを男にぶつける訳にもいかず、
私はぎゅっと手を握り締めてその場を立ち去ることしかできなかった。




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よる - お話の流れがめちゃくちゃ綺麗でスラスラよめちゃいました!面白かったです!続き楽しみにしてます! (2022年8月26日 21時) (レス) @page21 id: 51420f01b3 (このIDを非表示/違反報告)
紗夜(プロフ) - 続きを…続きをください!_○/|_ (2022年4月14日 3時) (レス) @page21 id: 5c2d649dea (このIDを非表示/違反報告)
ぼんど(プロフ) - めちゃんこ面白いです!!これから銀ちゃんや土方さんとどんな関係になるのか気になります!更新待ってます! (2022年2月7日 21時) (レス) @page21 id: 35902c24cd (このIDを非表示/違反報告)
キーさん(プロフ) - 更新!!待ってましたー!!ありがとうございます今回も良かったです!作者様のペースで頑張ってください! (2021年4月7日 23時) (レス) id: 1d2c287881 (このIDを非表示/違反報告)
- 続きが気になります!更新お待ちしております (2021年4月1日 23時) (レス) id: 5f29fe8655 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:A | 作成日時:2019年4月14日 22時

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