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そしてAの今にも崩れ落ちそうな体を

目の前からふわっと抱きしめたのは、あの鬼だ。

揺れる白乳の甘い髪の毛に、神のように美しいペプロスを纏い

その周りは蛍が如く煌びやかに、けれど眩しすぎない優しさの光沢が数粒も浮く。


〔大切なんじゃろう?小童共が〕

『………いや』

〔そう答えぬしかないよなあ、お主が大事だと心思う程に、助けて欲しいと言う

強き欲望が放出され、お主はおぞましき悪霊と成り果てるのだから〕

『黙れ、鬼』

〔ふはは、はは。ここまで心を故意的に閉ざされる生き物…正しく神じゃな。

じゃが、ちと無造作過ぎたのう。未だにお主は週例に奇すしき薬を

人体実験で造られし忌まわしき体に、投与せねば生きられぬのだから〕


Aはその言葉に、胸に針が突き刺さるような痛みを感じる筈だが

それを何とか抑えた。抑えれば人間もどきであることを許されるからだ。

人体実験で生まれたAは、何処かの国から連れてこられた下人であった。

人種差別の代表的な例である。幾多の人々がそうやって、罪を持たぬのに罪を償えと

命令され殺される。


〔…人体実験で得た物は、あ−、なんじゃったけ」

『身体強化、人間の十七倍。君の言う通り、週一回の注射液を怠ると

私はお望み通り脳から腐って死ぬ』

〔放置してしまえば良いのにのう…〕

『はは、知ってるだろう?君も。』


その乾いた、然し乍ら何処か、“ 助けてお願いだから ”と希う

本当の彼女の呟きも含んでいるような音色であった。

人間なら誰しも持っている感情や、誰かに愛されたいと言う欲望を

出すことを禁じられ、毎日が苦痛な彼女にとって生きろ、は残酷すぎる

報いである。


〔……あぁ。思い出したぞ。もう一つの改造。

時限爆弾じゃったな。お主が万が一逆らった場合の為に埋め込まれよった。

……其れが爆発するとAが死ぬ所か病原菌が蔓延してしまうのじゃろ?

お主は無惨にも抑え込んでいるがのう……。

不時の災厄にと死よりも封印されることを選ぶお主は

日常的に、封印魔法を使える心得をしておる。〕


見てきた生ぐるしい光景は、脳に焼き付いて、そして蒼く光った。

最早地獄など比にならぬ程、その人生録はあまりにも

血の通った人間のす通るものではないような、死体の埋まる泥沼の道だった。


『………嗚呼。嗚呼。死にたい、死にたいなあ』






私の間違いは

___この世に生まれてきたことではなく、存在してしまったことだ。




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作者名:みるく | 作成日時:2022年1月5日 18時

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