もっと、深く、愛して【中原中也】

歪な愛 7 ページ8

昨日の恍惚とした表情とは打って変わって、中也は蒼い瞳に真剣味を称えてAを見つめる


「…昨日、お前と目が合った瞬間…心からお前が欲しいと思った」


まるで、熱い蒼い炎のような、熱い、熱い眼差しに、Aの鼓動はトクン、と高鳴る


中也の自分を買い取った本心に、戸惑い、Aは中也から目を逸らした


すると、中也はAの手にそっと手を重ねた


「…っ！」


反射的にその手を払ってしまい、ハッとして中也を見ると、中也は決して動じずに、真っ直ぐにAを見つめたままでいた


「今すぐ俺に気を許せなんて、無理な事は言わねェ、強制したりもしねェ…だから、気が向いたらでも、気を許せた時でも、何でもいい」


ゆっくりと紡がれる中也の言葉から、中也の視線から、Aは目が離せなかった


「その時は…その時は、俺の想いに答えてほしい、その時まで、待ってるから」


その中也の真剣で…少し切なげな瞳に、Aは動揺して瞳を揺らす


あまりの動揺に言葉を発することも出来ず…Aはこくりと小さく頷いた


すると、中也は心底嬉しそうに微笑んだ


「ありがとな…お前、名前は？」


答えてもいいものなのか、この人の傍にいていいのだろうか、と悶々と考えて黙り込んでいると、中也は軽く笑った


「気が向いたら、教えてくれよ、名前」


そう言うと、中也は手をAの頭に乗せようとした…が、Aがその手に体を震わせたのを確認すると、空を掴んで手を引っこめた


「どの部屋も好きに出入りしていいからな、出掛けたかったら言えよ、何処でも連れていくから」


そう言い残して自室へと行った中也の背中を、Aは戸惑いを隠せずにただ見つめていたー…

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