もっと、深く、愛して【中原中也】

歪な愛 46 ページ47

長い廊下を歩いていると、女性の泣き声や大人達の安堵の声が聞こえてきた


「助けたよ、全員」


その言葉に振り向くと、太宰は壁に寄りかかって立っていた


「そっちも助けられたみたいだね」


にこり、微笑む太宰に中也は薄く笑った


「…ありがとな、糞太宰」


中也の礼に太宰は身震いをすると苦々しい顔をした


「げっ、辞めてよ、中也にお礼言われるとか気持ち悪いから」


「…有難う御座いました、太宰さん」


Aが頭を下げて礼を告げると、太宰は優しい笑みを浮かべた


「君のご家族もいたよ、会わなくていいのかい？」


太宰の問いに、Aはふるふると首を振る


「いいんです…会わなくて」


「家族の元に帰ったら…もう一生、中也さんの元へ帰れなくなってしまいますから」


少し寂しそうに、悲しそうに笑って涙を浮かべるAに、中也は目を見開く


「お前…」


太宰は呆れたように息を吐いて笑うと、中也に目を向けた


「…だってよ、中也…、Aちゃんの家族の為にも、責任取って愛さないと駄目だよ」


「そんなの…とっくの昔から心に決めてる」


強く、強く、まっすぐに太宰を見つめて宣言する中也を見て太宰はクスリと笑った


「この事件を解決したのは探偵社ってことにさせてもらうから、早く中也は帰って、警察来るよ」


しっしっと追い払う手振りの太宰に中也は憎々しげに答える


「言われなくても帰ってやるよ！」





サイレンの音を遠くに聞きながら、二人は魔都・ヨコハマの夜の街を車で走っていた


二人とも一言も言葉を発さず、ただ手を繋いで、お互いの温もりを感じていた


言葉なんて、要らなかった


ただ、ほんの少しすれ違って


ただ、ほんの少し離れただけで


お互いの存在がどれ程大きいか、身を以て知ったのだ


胸が、張り裂けそうなくらいに


Aは中也の愛車に揺すられながら右手に繋がれた中也の手をきゅう、と握り直した


すると、中也はそれに答えるようにより深く指を絡ませた


『もう、何があってもお前を俺から離さない』


と言うように





駐車場について車から降りようと繋いだ手を名残惜しくAが離そうとすると中也はAの身体をシートに押し付けた


重なる視線


熱の篭った青い、炎の灯った瞳


嗚呼、もう逃げられない


Aが目を瞑ると、何時もより熱い唇が押し当てられた

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