もっと、深く、愛して【中原中也】

歪な愛 30 ページ31

翌朝、Aは何時ものように朝食を作りながら、昨夜の接吻印をそっとなぞった


傷んだりはしないが、くっきりと残されたそれに、Aは赤面する


唇にキスを強請った後も無数に付けられ、身体中は接吻印で溢れ返っていた


「出かける時は隠さないと…」


なんて呟くと、後ろから不服げな声が聞こえてきた


「隠す必要なンてねェだろ？」


その声に振り向こうとすると、身体に腕を巻かれ、みっちりと抱き締められてしまう


「ちゅ、中也さ…！」


慌てるAに喉の奥で笑い、青い瞳を悪戯に細める


「おはよう、A…昨日の夜は楽しかったなァ？」


他人が聞けば勘違いするような台詞を言う中也に、Aは声を上げる


「そっ、そんなことっ…っ！？」


Aは声を上げて肩を揺らした


というのも、中也が一つに高く結われたAの艶やかな髪の毛を持ち上げ、露となった項に息を吹きかけた


「前もポニーテールにしてた事あったけど…本当に唆られる」


今にも舌を這わそうとしそうな中也の興奮した声に、Aは何とか腕の中から逃れた


「もっ、もう！朝ごはんもう出来るから！」


顔洗って！と促すAに中也は唇を尖らせた後、渋々と洗面所へと向かった





お皿洗いをし終え、ぼうっとテレビを見つめていると、中也が声をかけてきた


「何やってんだよ、行くぞ」


唐突な声がけに、Aは何のことやら、目を丸くする


「へ？」


間抜けな声を出すAに、中也は呆れた顔をする


「マフィア、行かねェのか？エリス嬢お前の事気に入ったんだぜ」


表情を一変させ、笑う中也に、Aはテレビを消して身を乗り出した


「い、いいの？！」


「いいに決まってんだろ？準備してこいよ、待ってるから」


中也の言葉にAは顔を輝かせ、すぐ支度を整えに行った






マフィアまでの道のりは短い筈なのにもどかしくて、Aはウキウキしながら窓の外を見ていた


「そんなに楽しみか？」


笑いながら運転する中也に、Aは頷く


どんなに中也と想いが通じあったとはいえ、1人でいることはとても怖くて、寂しいのだ


(またエリス嬢と…首領さんと、あの運転手さんに会えるんだ)


どんな事を話そうかな、等と思いを巡らせ、Aは車に揺られていたー…

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