もっと、深く、愛して【中原中也】

歪な愛 15 ページ16

食べ終わり、食器洗いを済ませると、ソファに座る中也が手招きをした


「来いよ」


優しく細められる、青い瞳


その視線に戸惑い、Aは顔を逸らす


「…ほら」


(狡い、猟奇的な部分が嘘みたいな、優しい声音で、私を促して)


Aは観念し、ソファの端にちょこんと座った


それでも、中也は満足だったらしく、機嫌良い声で礼を述べた


「ありがとな、本当に」


此方に顔を向けられるも、直視出来ずにAは反対の方を向く


「…別に」


可愛げのない態度をとっていると、中也は顔を近づけてきた


「なァ」


突然の事に驚き、Aは身体を引いて目を見開く


そんなAに、中也は楽しそうに笑った


「ご褒美、やるよ」





高級車に乗せられ、連れてこられたのは、来たこともない煌びやかで高級感溢れる洋服屋


店頭に並ぶマネキンが着こなす服は、どれも上品なデザインで、Aの表情は自然と明るくなった


「凄い…！」


無邪気な笑顔を浮かべるAを微笑ましそうに見つめ、中也は言う


「気に入った服、全部買ってやるから、好きなの選べよ」


中也の発言に、Aは躊躇うように視線を彷徨わせる


「えっ…、いい、の？」


「お前服持ってねェだろ？それと、飯作ってくれた礼だ…遠慮なんてすんなよ？」


中也はそう言うと、鼻歌を歌いながら服を見始めた


その背中に声を掛けようとしたAだったが…


(いいかな、買って貰って)


中也の言葉に甘えてしまおう、とAは笑みを浮かべ、服を見始めた


どの服もお洒落で、Aの胸は心踊った


どちらを買おうかと、手に持ち思案していると、後ろから中也が両方をかっさらっていった


「へっ！？」


目をぱちくりさせるAに中也は何食わぬ顔を向ける


「悩んでるならどっちも買っとけ」


それからもそんなやり取りが続き…


気づけば籠は2つになり、籠の中は服で溢れかえっていた


「こんなもんか…あと欲しいのは」


問いかけた中也の声がピタリと止まった


不思議に思い、中也の視線を辿ると、その先には白いワンピースを来たマネキンの姿


ドレスにも見えるリボンとフリルのついたワンピースに、赤色のカーディガンが映えていた


中也がそれを手に取り、カーディガンを取ると、そのワンピースの背中は大きく開いていた


「…これも買うか」


中也はそう呟くと、店員に支持をした


「お前が着たら綺麗だろうな」


恍惚と微笑む中也の青い瞳は、期待と興奮に満ち溢れていた

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