愛の数だけコウフクな嘘を【中原中也】【太宰治】

コウフクな嘘 9 ページ10

Aは全身鏡の前で自分の頭の天辺から足の爪先まで確認した


「多分大丈夫…かな？」


Aは太宰の意に沿って着たワンピースの裾を持ってみる


若干太宰とのデェトに不安を持ちながら、Aは駅へ向かった



日曜日、ということもあり、待ち合わせの西口は人で溢れかえっていた


人の多さに呆気に取られていると横から腕を引っ張られた


「きゃあっ！」


Aは予想外の力にぼふん、と何かに顔面を埋める


ぷはぁっと顔を上げると…赤茶色の瞳を楽しそうに細める太宰と目が合った


「やぁ、Aちゃん」


太宰の姿を認めるなり、Aはすぐに身体を離した


そんなAとは裏腹に太宰はAの格好をじぃっと見つめると、満足そうに微笑んだ


「うん、可愛い」


感想を告げられ、Aは目を見開く


「…とっても可愛いよ、リクエストに答えてくれてありがとう、嬉しいよ」


耳元で低く囁かれ、顔に熱が集まっていく


太宰は性格の悪さだけではなく…こういった口説きが上手いものだから、苦手てあり、嫌いであった


「わかったから、耳元で囁かないでっ！」


胸板を押すと、太宰は愉快そうな笑みを浮かべる


「なぁに、Aちゃん、ドキドキしてるの？」


その言葉に、更にAは顔を赤くする


「ち、違っ…」


否定しようとした所で、するり、指に指を絡められた


「私はドキドキしてるよ」


太宰はまるで愛おしいものを見る様な目でAを見つめた


その視線に、繋がれた手に、Aは戸惑う


「ちょっ…手」


繋がれた手を解こうとするAの手に、太宰は更に深く指を絡める


「駄ぁ目、離しちゃ…今日はデェトだよ？デェトで手を繋ぐの、当たり前でしょう？」


愉しそうな目、初心なAの反応を楽しむ目だ


余裕な様子の太宰に、Aは悔しげに呻き声を上げる


「ふふ、さぁ、いこうか」


腕を引っ張られ、Aはヨコハマの街へと足を進めた



自分より遥かに小さい手、ヒラミニのワンピースから覗く、白くて柔らかそうな太股


そして…真っ赤なAの困った表情


(参ったな…)


太宰は内心、余裕など微塵も無かった


余裕をぶっこいていないと、Aに対する想いで溢れてしまいそうなのだ


隣で歩くAに、太宰はちらりと目を向けた


(嗚呼…本当に私の彼女だったらいいのに)


「…今日は、私の彼女になってよ」


その小さな切なげな呟きは、Aの耳には届かずー…海の風に攫われて消えていった

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