愛の数だけコウフクな嘘を【中原中也】【太宰治】

コウフクな嘘 21 ページ22

普段、下級構成員が立ち入らないー…否、立ち入れない森の執務室に、Aはいた


じっと此方を見つめる深紅の瞳を見つめ、そうして、沈黙した空気を破った




「私、マフィアを辞めます」




キッパリ、そう一言告げると、森は「ふむ」と顎に手をあてて椅子に寄りかかった


「いいだろう…、でも、何故辞めるのかね？」


「種田長官からのご指示です」


短く答えると、森は顎に当てていた手を絡めて、微笑んだ


「そうかい、君が抜けてくれれば、屹度仕事が捗るだろうねぇ、彼も」


"彼も"


その言葉に、Aは訝しげに首を傾げる


そんなAの様子を見て、森はふっと笑みを漏らした





「彼だよ、中也君さ



最近、君の事で悩んでいるらしいからねぇ





悩みの種が居なくなれば悩みは無くなるだろう？」




森の言葉に、心臓が跳ねた


言葉の心理を探ろうと、その紅の双眸を見つめるも、怪しい目の色からは何も読み取れない


「…そうですか」


と、それだけ何とか返して、Aは頭を下げた


「それでは、失礼します」


何となく心に霏を残したまま、Aは森の前から立ち去った




「言葉の意味がわからないわ、リンタロウ」


ひょいっ、と椅子の後ろから姿を現したエリスに、森は肩を跳ねる


「うわっ、エリスちゃんいたのかい！？全く…盗み聞きは駄目なのだよ」


「だって気になったんだもの！」


ぷん、と頬を膨らませるエリスに、森は目を細めた




「あの二人はお互いにすれ違っている


"嘘"を付き合っているんのだよ




それが解ければ…、屹度幸福が訪れるだろうねぇ」



遠く、窓の外のヨコハマの景色を見つめる森に、エリスは眉を下げた


「でも、Aは辞めちゃうわ」


「そうだねぇ…、中也君がそれを知ってどうするかが問題だ」


(さぁ、どうする？中也君)


二人のこの先の恋路を思い浮かべながら、森は微かに微笑んだ

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