作戦参謀と五大幹部サマ【中原中也】

作戦参謀 28 ページ31

「なん、で…」


中也の口から発せられた言葉に、Aは耳を疑った


知っている訳がないのだ、うちに秘めていた、森への想いを


掠れた声で問うと、中也は空笑いしながら言った


「首領から聞いたぜ、Aと恋人同士だってな」


中也の言葉に、Aは驚く


(首領、なんでそんな嘘…！？)


誤解を解こうと口を開いたが、それより先に中也が話した


「首領、本当にお前の事好きなんだよ…だから、裏切らないでやってくんねェか」


ズキン、Aの胸に、大きな氷の矢が刺さる


何も言えずに目尻に溜まる涙を堪えていると、中也は下を俯いて謝った


「悪ィな、またキスしちまって…酒のせいで頭回んなかったみてェだ、今のは忘れてくれ」


次々と告げられる残酷な言葉に、Aの瞳から涙が零れ始めた


(中原幹部は、私の事、好きじゃないんだ)


(お酒のせいって、私じゃなくても、キスしたってこと…？)


心の中で、悲しい気持ちと怒りの気持ちが色々と混ざりあって、


「…、忘れられるわけっ、ないじゃ無いですか！」


Aは中也を精一杯怒鳴りつけて、部屋の外へ駆けていった


「…っ、ひっ、く、ぅ、う」


溢れる涙を、堪えて堪えて、走り続ける


「中原幹部の、馬鹿っ…」


『首領じゃなくて俺にしろよ』と言ってくれるだけで良かった


強引にでも、中也のものにしてもらいたかった


「私の、馬鹿っ…」


中也の反応を、言葉を恐れて、誤解を解くことも出来ない弱虫




Aが出ていった部屋で、中也は1人自嘲気味な笑みを浮かべて顔を片手で押さえていた


「何やってんだろうな、俺は」


寝台に触れると、まだAの熱い体温が残っていた


「なんで、『お前が好きだ、首領じゃなくて、俺にしろよ』…それだけを言う勇気がねェんだ…！」


Aの反応と、言葉を恐れて、想いを告げられない臆病者


カチ カチ カチ ガキン


Aの運命の歯車の一つが音を立てて外れ、地面に落ちた





翌朝、どうしても出勤する気になれず、Aはいつの日かのように布団に潜り込んでいた


「…どうしたらいいのか」


気づいた想いは、砕け散ってしまった


(ただ、1人で空回りしていんだ)


中也の言葉、笑顔、態度


「…全部、私が好きだからじゃなかった」


(私には特別でも、中原幹部にとっては当たり前だったんだ)


(他の女性にも、あんなに優しくするのかな)


そう思うと、心に嫉妬心が巡る


布団をかぶり直したとき、チャイムの音が響いた

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