此方向いて【双黒】

此方向いて ２６ ページ27

(なんだこいつ)




第一声はその一言に尽きた


見事整っていただろう髪の毛を走ったせいでぐしゃぐしゃになり、息切れをするA


髪型の凄さに目も行くが、問題はそこではない




飾り過ぎない白のシフォンワンピースに、紺色のジャケット


首元を飾る、華やかな桃色や白のビーズや金色の輪があしらわれた首飾り(ネックレス)


髪の毛ないつもと違い、降ろされて耳に掛けられてピンで止められている





(可愛い、本当に可愛い)





いつもと違うAの姿に、鼓動は自然と高鳴っていく



(もしかして…この格好の為に遅れた…？)



そんな都合のいい考えを頭の中で打ち消し、でもー…その予想を素敵ることは出来なくて



(俺のために、俺だけのために、こんなに着飾ったのか)



そう思うと、愛らしくて堪らない


Aへの想いが心の中を溢れに溢れてしまう


そんな熱い想いをAに伝えないように必死に緩みそうな表情を固める


「な、中原さん…？」


すると不思議そうな声


見るともの凄い髪型のまま首を傾げるAの姿


(可愛いな…)


そう思いながらスっと手を伸ばすと、ギュッと目を瞑るA


その表情がまた可愛くて、中也は内心悶絶する


丁寧に、何処までも優しく、とくように髪の毛を直していく



「ん、もういいぜ」



そう言った途端、Aの髪型と可愛さに笑いが漏れてしまった


目を開けるAに、髪型の凄さを指摘すれば、顔を真っ赤にして、頭どころか顔まで両手で覆う




(…嗚呼、本当に愛らしいやつ)




好きで、好きで堪らない






想いを飲み込んでAの華奢な両手を掴む


いじらしいAの姿に"意地悪をしたい"と思う自分がいた






「顔隠すなよ…、真っ赤だぜ？」






無理矢理退かせば、羞恥に瞳を潤ませて此方を見るAの表情


狡い、その表情は狡すぎる


また胸が更に高鳴りだし、それでも中也は余裕ぶる




「…可愛いやつ」




目を細めて低く呟くと、Aはその小さな肩をびくりと揺らした


「…よし、じゃあ行くか」


笑って背中を向けると、「中原さんの馬鹿っ…！」と言う声と共に、背中に２、３度、Aの叩き


「いっ…！手前強いっつの！」


意外に痛く、声を上げて振り向くとAはクスクスと笑っていた


その楽しげな表情に、思わず目を奪われてしまう




「…行くぞ」




思い切り、勇気を振り絞ってその手を握る


多分、耳が赤いのはAに隠しきれなかったかもしれない

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