此方向いて【双黒】

此方向いて １４ ページ15

朝



「どうしよう、国木田さんに怒られちゃう…！」



時計は出勤時間を30分過ぎた8時半


Aは探偵社員寮を飛び出した


朝、目覚めれば7時半


軽く狼狽している所へ、太宰の粥を作り、洗濯物を干したりなんだりしていたらこの時間になってしまった


(太宰さん大丈夫かな…)


熱を測れば、37.8℃


昨日よりかは下がったものの、まだ太宰の体調は良くならなかった


「でも…太宰さんと同じ部屋で…」


添い寝、とまではいかないが、同じ部屋で1夜を過ごす事が出来た


「うふ、ふふ…、嬉しいなぁ」


いつの間にか探偵社に辿り着き、ニヤニヤしながら扉を開けると






「朝から呆けた顔をして遅刻とは…いいご身分だな、貴様」






上から降ってくる低い声にがバリ


顔を上げれば



眉をヒクヒクと動かし、腕を組み、仁王立ちの上司



「く、国木田さんー…」



同じ様に眉をヒクヒクと動かした直後、国木田の雷が探偵社に轟いたのだったー…







「うぅ…、お、重い」


Aは両手に大きな袋をぶら下げて必死に探偵社を目指していた


あの後怒られたものの、訳を話すと国木田の怒りはすっかりと太宰へと移り、なんとか丸く収まった


今日も今日とて資料、報告書作成…かと思えば



『A、実は今日の買い出しの番は太宰なのだが…彼奴がいないからな、代わりに行ってくれ』



任務に出向かんとする国木田に告げられ、Aは渋々買い出しに行ったのだ


「私も任務に参加したいなぁ…皆の役に立ちたいのに」


そう、Aは特殊な事がない限り、任務に命じられることは殆ど無かった


何度理由を問うても、国木田は暗黙したまま、また、社員もそうであった


「もう…」


半ば不貞腐れながら足を進め続ける


探偵社の建物が見えたところで





ーグイ




後ろへと引っ張られ、Aは姿勢を崩す


その反動で買い物袋がバサりと地に落ちた



「ちょっ…、ん！？」



焦りと恐怖に声を上げようとすると、真っ黒な手に口元を押さえられる




「おッと…、死にたくなきゃ大人しくしろよ？」



ククク、と喉の奥の笑い声と、聞き覚えのあるー…、否、正確に言えば昨夜聞いたばかりの声にAは察した


プハッと手が離され、口が解放されると、Aは息を大きく吸い込んでー…





「なっ、中原中也っ！？」





その男の名前を呼ぶと、中也は蒼色の瞳を細めて不敵に笑を浮かべた

此方向いて １５→←此方向いて １３

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す