サンクチュアリの良い所2 ページ28
あっという間に一時間が経ち、二時間が経った。
気づくと僕は、ノート30ページ分の推薦文を書き上げていた。
すごいぞ、僕!
僕は自分で自分を拍手したくなった。
これで大丈夫、サンクチュアリの良い所は、思いつく限りこの30ページに詰め込んだ。
流石のお母さんも、この推薦文の前にはぐうの音もでまい。
僕は不敵に笑いながら、誤字脱字を見つけるつもりで自分の文章を読み始めた。
ところが。20分後、僕は頭を抱えていた。
改めてノートを見直すと、僕がそこに書いていた内容は「サンクチュアリの推薦文」と言うよりも、「ユウミさんの推薦文」になっていたのだ。
「……大家のユウミさんはとても素敵な方です……」から始まり、
「朝、ユウミさんが可憐な花々の咲く庭で水やりをしているのを見るだけで、僕は新しい一日がやって来た事に心から感謝をしたくなります……また、僕が一日目で体の調子を崩してしまった時も、ユウミさんは優しく……」と続き、
「だから僕は、サンクチュアリに住む事で最高に日々を謳歌出来ると思っているのです。ユウミさんも………」と、僕の文章には始終ユウミさんが登場する。
これじゃあお母さんが読んでも、「ユウミさんは素敵な人」という事しかわからないだろう。
と言うか……僕がユウミさんが好きだという事が、絶対にバレる。
その事で別に怒られたりはしないと思うけど、嫌だ、恥ずかしい!それだけは避けたい!
やっぱり、書き直すか………。
僕は、今度こそちゃんとした推薦文を書こうと別のノートを引っ張り出した。
気分を変える為、もう一度深呼吸をする。
ペンを握り、さぁ一行目……と取り掛かった。
しかし。
何を書いたら良いのか分からなくて、手が止まってしまった。
僕は慌てて頭の隅から隅まで言葉を探した。
でもどうしたって良い滑り出しが見つからない。
何なんだよ!
さっきはあれほどスラスラ書けていたのに!
そして、また一時間が経った。
ずっと悩んでいた僕は結局、推薦文の内容ではなく、それが書けない訳というものを見つけてしまって愕然とした。
それはつまり、「どんなに外観や内装が素敵でも、もしサンクチュアリにユウミさんがいなかったなら、僕はあの二人と一緒に暮らす事など出来やしない。一日も持たずに引っ越していただろう。」という答えだった。
どうしたらいいんだよ…………!
推薦文も書けないとは思わなかった。
僕は結局「嫌だ!帰りたくない!」ってお母さんに言い続けるしかないのか……?!
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作者名:木の葉月&シャーロック | 作者ホームページ:https://twitter.com/Sherlock_Rio
作成日時:2020年11月13日 12時