悪魔は善良【そこにはもう誰もいない】

▽（※） ページ14

僕は菜の花を勢いよくかぎ分けて進む。

走る走る走りながら花粉がついているのも知らずに、僕は夢中でかけている。

なぜこんなに走っているのかといえば、誰かの甲高い悲鳴が聞こえたからだ。その悲鳴をあげた正体を知りたいと思い、今でも走っている。



菜の花畑を越しそうなところで、僕は黒い服の人物を目撃した。その人物は女の人をなんどもなんどもナイフで刺していたのだ。

真っ赤な血が噴水のように吹き出し、みるみるうちに殺人鬼の右手を染めていく。


僕はその黒い服の紳士のような格好をした人があまりにも恐ろしくて、菜の花の隙間でブルブルと震えながら身を隠していた。

もしかすると物音でこちらに気づいてしまうだろうと思い、口を手で覆い後ろへと下がってみた。


どうやら気づいていないようだ。
物音を立てずに慎重に……と。


「何をしているの？」

僕はその大きめな声にびっくりして、

「しっ、静かにしろよ。殺されてえのか？」

とささやくようにAに注意したけれど、もうすでに気づかれてしまったようだ。

「そこに誰かいるのか？」

しわがれたその声は男か女かも区別がつかないほどで、犯人の性別は分からない。

けれど殺人鬼ということだけは確かなようだ。

その殺人鬼の顔を見ようとしたが、黒い仮面に白い肌をした黒い服の黒帽子をかぶっているのでよく分からなかった。

しかもその特徴が「バラの伯爵」とよく似ている格好だ。

もしかしてこいつが……


考えている場合じゃない。
逃げよう、殺されたくないのならば。

▽→←▽

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す