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浴槽の側にしゃがんで、Aと視線の高さを合わせながら問いかけた。


「……なんか、あったんだろ」


Aは焦点を俺に合わせて暫し黙る。
最初に発する言葉を悩んでいるみたいだった。


「……いつものこと」

「いつも……じゃないだろ。いつもは、こうじゃないんだから」

「ううん、いつものこと。少しだけ、大きかっただけ」


それをなんかあったって言うんだろ。何だこいつ。
視線にその感情が表れたのか、俺の思いを察したようにAは苦笑した。


「今更ってことだよ。ただ、こう……溜まった分? が、溢れた……ってところ」脳内の辞書をめくりながら話すAならではの、単語間の二秒。

「……だから、それが溢れるキッカケくらいあるだろ? 聞いてんのはそこ。原因。アクシデント。ハプニング」

「そう言われても……」

「あとさっき、日本語で独り言したろ。なんて言ったの」

「さっき?」


言うとAは唸って、さっきはふわふわしていて何を口走ったか覚えていないと答えた。
気になって仕方のない俺は、じゃあなんて言ったと思う? と問い直した。予測で過去を作るなんて、絶対しちゃいけないことだけど。今だけは見逃してくれ。

Aはまた唸る。


「そうだなぁ……みんなのことが大好き、かな」


よくも、恥ずかしげもなく言い放てるものだ。
実際先程俺の名前はその文面で上げていたわけだし、あながち遠くもないものなのだろう。

しかしながら、突然言うことじゃないことだけは明確だ。


「なんで、急に?」

「好きだから、そばにいたい。って思ったんだ。僕の初めての友達、って、勝手に思ってるから」

「……どういう……」

「……僕がオーディションを受けた理由はね、友達が欲しかったからなんだ」


浴槽の縁に腕を置いて、俺と目を合わせながら言う。
人魚が這い出てきたようだ、と思った。男であるとか同い年とか関係なく、上品さと作り物じみた自然な様子がそう思わせた。


「言葉がわからなくて、文化もわからない。得意なことは歌と絵と小説。普通にしてたら居場所なんてないと思ったから、飛び出して、駆け込んだ。なんでもいい。僕を知らない人だけで構成された場所に行きたい、って」


ここなら、友達ができる気がしたんだ。

嘘偽りのない微笑みが、痛々しい。
本心を語っている。嘘をつかずに、靄の中に本質を放り込んでいる、Aの紡ぐ文章が苦しい。

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- 性被害後の処理の方向が驚きでした。完結までもっていってくださりありがとうございます。お疲れ様でした。 (2021年8月5日 3時) (レス) id: 95434f44d3 (このIDを非表示/違反報告)
ぼく(プロフ) - 虞犯少年さん» リクエストさせて頂けて光栄です、新しい作品の方も毎日毎分まだかまだかと更新楽しみにしております(笑) (2019年1月3日 16時) (レス) id: a099ebec59 (このIDを非表示/違反報告)
虞犯少年(プロフ) - 猫わかめさん» そんな素敵な言葉をいただける作品を書けたことを嬉しく思います。読んで下さりありがとうございました。 (2019年1月3日 14時) (レス) id: 3f60c9b07f (このIDを非表示/違反報告)
猫わかめ - 感動しました。次へ、次へと、手が止まりませんでした。素敵な小説をありがとう。そして、完結お疲れ様でした (2018年12月31日 17時) (レス) id: abf16c0298 (このIDを非表示/違反報告)
虞犯少年(プロフ) - ぼくさん» ありがとうございます。まさにそう思われる作品を目指していたので、本当に嬉しいお言葉です。いいですね、短編でやってみたいです。 (2018年12月29日 14時) (レス) id: 3f60c9b07f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:虞犯少年 | 作成日時:2017年10月7日 22時

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