プロローグ ページ1
*
昨晩、妹が死んだ。
今朝からずっと雪が降っている。
昨日は、私の誕生日で、毎年恒例の誕生日会をする予定だった。妹は早く帰るために、いつもは通らない路地裏を通ったらしかった。二人でケーキ1ピースを食べるはずだった。
しかしそこで、佐野万次郎が人を撃つ瞬間を見てしまった。
当然、目撃者を逃がすわけもなく、妹は無慈悲にも殺された。
遺体は、今朝がた見つかるまで放置されたままで、雪が降り積もっていたそうだ。
死ぬ直前まで恐怖で震えて、死んでからも寒さで震えて…。
妹の痛み、苦しみはどれ程のものだったのだろう。
…………。
…………。
両親がおらず、社会人になってやっと妹と暮らせるようになったのだ。
二人で助け合いながら生きてきた。
本当に良い子だった。
将来は、医者になって人を助けたいのだと言って、頑張っていた。
それなのに、殺されてしまった。
絶対に、佐野万次郎を許さない。
私は復讐を誓った。
雪は、今もなお降り続いている。
***
海から吹いてくる潮風が、肌に突き刺る。寒さで体がかじかむ。
あれから１ヶ月が経ち、ようやく佐野万次郎の居場所を突き止めることができた。
今、私は港の倉庫街へと来ていた。
(あともう少し…。あともう少しで全てが終わる。)
あの日誓った復讐は、もうすぐ終わりそうだ。
積年、とは言えないが、それに相当する、いや、それ以上の恨みを晴らす時がきた。
「佐野、万次郎…」
憎き相手が黒いリムジンから降りてくる。
今しかない。
私は、佐野万次郎に拳銃を向けた。
そして引き金を引く＿その瞬間、私の胸に鋭い痛みが走った。
ゆっくりと地面へ近づいていく体。
口からこぼれ出る赤い液体。
撃たれたのだと理解するのに、時間はかからなかった。
走馬灯のように、思い出が頭のなかを駆け巡る。
(このまま死んでしまうのか。)
憎き相手はまだ、死んでいないというのに。
赤く染まった雪を見て、もう助からないのだと悟る。
倒れる直前に見た佐野万次郎の目は、まるでモノでも見ているのかのように暗く、無機質だった。
夜の海の、深い闇のような瞳。
憎い。
怖い。
苦しい。
そして何より、情けない。
結局私は、あの子の仇を取れなかった。
(ごめんなさい＿＿＿ )
もし、もう一度やり直せるのなら、必ず………
雪は今も降り続いて…
続く
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作者名：りふり | 作成日時：2021年11月22日 23時
