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キャロルはどんよりっとした曇った表情を浮かべ、ロメオの顔をまじまじと見た。ロメオは怪しげな明かりを瞳に宿したまま、じっとその場を離れなかった。俺はおつまみを一口含んだ後、しゃべりながら、それを崩していく。
「ははっ。ベビーシッターの話は、射撃場でよく聞くよ」
「おっ、驚いていないようだねえ」
「報酬も良いって聞くけど、いくらなんだ?」
「そうだな……。だいたい3000ドルだ」
「へーえ」
俺は眉を上下に動かし、上機嫌でウォッカを軽く口に含んだ。まだ苦いが、分厚いグラスに唇をあてる感覚が快楽を齎した。3000ドルという額をつけられた子供のことが考えられない。親と離れて、小さな身体で大きな感情を持ち、脇をくすぐられたって泣き止めない。
喉がつーんとなり、俺はチェアを回してロメオから視線をはずした。キャロルはそれを察して俺の肩を重く何度もとんとんと叩いた。そして、3000か……とぽつりと呟く。哀愁を消したつもりだが、尾がひく。
「良い額ね。トップクラスの額なのかしら?」
「うーん、そうだね。素人さんでも出来る簡単な額では、トップだと思うよ」
「そうよねー……。早く子供欲しいしなあ」
キャロルが何気なく言った言葉に、涙まで出て来そうだ。キャロルの右手から、セーター越しに体温が伝わる。半ば強制的に与えられたぬくもりは、乱れた心を統一させようとしてくれていた。
「ベビーシッターの仕事、やってみる? 子供も早くに産んだ方が負担は少ないし」
「じゃあ……。紹介してくれる?」
「仕事する日は、速い方が良い?」
「明日にでも。ちょうどね、明日はお仕事休み」
「へえ、なら、良い仕事がちょうど着てるよ」
「まあ」
キャロルは妖艶なオーラを醸し出して、グラスに唇をつけた。ロメオはカウンターの下にあるピンクケースを出して、中に手を突っ込む。手渡されたB5の紙を見て、目を通していく。2枚の全く同じ紙で、ホチキスで留めてあった。
「いいわね」
キャロルは言うと、ロメオはそれをとって紙を1枚ちぎった。ホチキスが残った下の方を、ロメオは持って別のケースに入れる。キャロルに穴の開いた紙を手渡し、
「本当はうちの従業員に行かせるつもりだったんだけどね。ゼルとリナが行ってくれるなら、こっちは行かなくて済むよ。オークション会場には午後2時までに行ってくれ」
「ありがとう」
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あに(プロフ) - いえいえ。こちらこそ、お忙しいところ申し訳ありません。 (2015年11月1日 10時) (レス) id: b6e044a433 (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - あにさん» ありがとうございます。私もコイツらのこと好きです(°▽°)/あに先生の小説の評価、遅くなって申し訳ありません。これから暫く暇になると思うので一気読みしますb (2015年11月1日 8時) (レス) id: 6298628eb9 (このIDを非表示/違反報告)
あに(プロフ) - キャラクターの台詞がとても好きです。そして、映画を見ているような感覚です。文を読むとその場の様子が浮かんできて、感動しました!このサイトではめったにこういう作品と出合うことがめったにないので……。 (2015年11月1日 0時) (レス) id: b6e044a433 (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - 阿吽さん» コメントありがとうございます(*´∇`*) 今振り替えると、文の羅列ばかりで配列に工夫がないような……。でも今のバランスなければ凄いという言葉は出ないはず。難しい所ですね。 読んでくださってありがとうございました! (2014年11月5日 23時) (レス) id: 5c4ab849ae (このIDを非表示/違反報告)
阿吽(プロフ) - 凄い…!!あ、イベントに参加登録してくれてありがとうございます!!!! (2014年11月5日 23時) (レス) id: e6f590558d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レイチェル・ハジェンズ | 作者ホームページ:https://twitter.com/seshiru777777
作成日時:2014年8月7日 15時