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ベビーシッターは家をこのような始末にはしていなかったと聞くが、何か争いでもあったのだろうか。どっちみち裏がありそうなのは確かだ。
俺は玄関に立ち尽くし、皆は窓から外の様子を伺ったり、花瓶を足で転がしたり、食器棚を見詰めたりしていた。思い思いに動く皆は、何かを察知しているらしい。
部屋を一望したビアンカは目を丸くして、「何だ? この家……」と言った。続いてジェームズは庭を覗き、鼻をくんくんさせて、火薬の臭いがすると呟いた。ライフルや拳銃を使うジェームズにとっては、一番気になる所だろう。
キャロルはキッチンを歩きなだめ、俺と目を合わせてこちらに歩いてきた。
「ねえ、ロバート。キッチンからかすかに硫黄の臭いがしたわ。
この家、やっぱり何かあったのよ」
「いや、硫黄は無臭だよ。硫黄に含まれている硫化水素の臭いだろう。この硫化水素は生物を死に追いやることが出来る物質なんだ。吸い過ぎると危険だ。
コンロはみたか? 二酸化硫黄を生成していたかもしれない。二酸化硫黄は呼吸器に影響を与える物質なんだ。あまり近寄らない方が良い」
キャロルは俺から視線を左に転じ、もう一度キッチンに目をやる。俺も目をやると、シンクに銀色の鍋が転がっていた。中には何か黄色のドロッとしたものがへばりつき、乾燥していた。チェリーがシチューを作っていたのだろうか。二酸化硫黄は無色だ。
キャロルはほっとして、「車から指紋のキットを持って来るわ」と言って俺の右肩に触れる。開いたドアから出て行き、煉瓦の道を歩いて行った。
ビアンカとジェームズは辺りを物色し、そして臭いを確かめていた。チェリーかブロッサムの女ったらしい甘い香水が俺の鼻をかすめる。俺は右手にある廊下を覗いた。奥にはトイレ、手前には2階へ通じる階段に、物置であろう階段部屋があった。
まるで先日まで人がいたとは思わせない、少し埃っ気のある空間だった。階段の壁に取り付けられたランプは白色だったろうが、今では灰色で霞んでいる。
「ロバート」
呼び止められて振り向くと、ジェームズが眉を寄せて俺を見ていた。
「もう一回、リゼに電話しよう」
「いや」と、俺は言った。
「あいつ等には家に来たことには内緒にしてあるんだ。あいつ等の事情も深入りする必要がなくても、指紋さえ手に入れば良いんだ」
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あに(プロフ) - いえいえ。こちらこそ、お忙しいところ申し訳ありません。 (2015年11月1日 10時) (レス) id: b6e044a433 (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - あにさん» ありがとうございます。私もコイツらのこと好きです(°▽°)/あに先生の小説の評価、遅くなって申し訳ありません。これから暫く暇になると思うので一気読みしますb (2015年11月1日 8時) (レス) id: 6298628eb9 (このIDを非表示/違反報告)
あに(プロフ) - キャラクターの台詞がとても好きです。そして、映画を見ているような感覚です。文を読むとその場の様子が浮かんできて、感動しました!このサイトではめったにこういう作品と出合うことがめったにないので……。 (2015年11月1日 0時) (レス) id: b6e044a433 (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - 阿吽さん» コメントありがとうございます(*´∇`*) 今振り替えると、文の羅列ばかりで配列に工夫がないような……。でも今のバランスなければ凄いという言葉は出ないはず。難しい所ですね。 読んでくださってありがとうございました! (2014年11月5日 23時) (レス) id: 5c4ab849ae (このIDを非表示/違反報告)
阿吽(プロフ) - 凄い…!!あ、イベントに参加登録してくれてありがとうございます!!!! (2014年11月5日 23時) (レス) id: e6f590558d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レイチェル・ハジェンズ | 作者ホームページ:https://twitter.com/seshiru777777
作成日時:2014年8月7日 15時