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参百廿壱 ページ48

薄暮を過ぎ、宵闇の入口を潜り始めたそんな時間。閉館時間を過ぎている美術館のとある絵の前、鑑賞ようにと設置されている長椅子に二人の青年が座していた。

一人は何処でもなく虚空を眺める太宰。二人目は太宰の膝を枕に天井をぼんやり見詰める夏也。二人の顔の良さも相俟って精巧な彫刻かと見紛いそうだが、戯れに夏也を撫でる太宰と擽ったそうに身を捩る夏也の小さな動きでそうではないと分かる。

静謐を保つ空間に足音が響いても、二人は微動だにしない。現れた三人目が隣の長椅子に腰掛けると同時、太宰はそっと空気を振るわせた。


「変な絵だねぇ」

「絵画を理解するには齢の助けが要る」

「この位なら私にも描けそうだ」

「君は凡そ何でも熟すが……。君が幹部執務室の壁に描いた自画像を覚えているかね?」

「えっ、あれ自画像だったの」

「酷いなぁ。あれでしょ、首領の処のエリスちゃんが敵の呪い異能と勘違いして大騒ぎしたやつ」


懐かしい話だ、殺伐とした中にある普通の話。一般家族みたいな珍事件を思い返し、三人ともクスクスと笑った。


「広津さん、例の件助かったよ」

「あの程度で良かったのかね? 私は白鯨潜入作戦を樋口君に漏らしただけだが」

「彼女が知れば芥川君に伝わる。芥川君が知れば必ず単身で乗り込んで来る。予想通りだ」

「そうまでして芥川君と虎の少年を引き合わせた理由は何かね?」

「確かめたかったからさ。……芥川君は単独でも十分破壊的だけど本来は中•後衛で真価を発揮する異能者だ。敦君のように速度と根性骨(タフネス)を持つ前衛を補強してこそね」


現状をそう分析し、太宰は笑みを刷く。芥川に足りないなら補える人物を宛てがえばいい。その為に芥川への教育を太宰は怠った事は無かったと自負している。不完全な点は片割れが如何にかする事も。


「何時から此の状況を目指していた?」

「敦君と最初に会った時から」


太宰の脳裏に浮かぶのはあの日夕暮れの川辺り。人食い虎捜索な時点で良い予感はしていた。今はまだ成長途中だが、中島なら太宰の思う通り……否、それ以上の成長を見せてくれるに違いない。

能力は申し分無いが癖の強い芥川と組ませるのに最適な能力者。欲しい物が、手札が揃ったのだ。


「新しい時代の双黒(コンビ)が必要だ。間もなく来る“本当の災厄”に備える為にね。此処から先の展開は私にも見えない。けれど奴は既に動いている筈だ。嘗て私が一度だけ会ったあの“魔人”は必ず――」

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みゃあ(プロフ) - 狐猫音。さん» 度々のコメントありがとうございます!少しでも楽しんで頂けたのなら作者冥利に尽きます。お言葉の一つ一つが物凄く嬉しいです。読んで頂き、ありがとうございます。 (2018年12月26日 14時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
狐猫音。(プロフ) - 限定公開……!クリスマスは楽しいですね。番外編という最高のクリスマスプレゼントをありがとうございます。とても楽しんで読むことができました。これからも更新頑張ってください。 (2018年12月26日 12時) (レス) id: 1402817ddd (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - myuさん» 有り難いお言葉です……!展開に自信なかったので少し安心しました!更新頑張ります。 (2018年11月4日 11時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
myu - とっても面白い作品です。更新頑張ってください (2018年11月3日 16時) (レス) id: fe06e07095 (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - ЯRさん» コメントありがとございます!そう言って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます! (2018年8月8日 15時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みゃあ | 作成日時:2018年4月30日 21時

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