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参百拾 ページ37

ふ、と。

玄関を開けようとドアノブに触れたと同時にぞわり、と不快感が駆け抜けた。もう夜も更けている時分だが、中原の帰宅時間としては妥当な部類。つまりは命知らずな輩に奇襲紛いなモノを受ける事もある時間帯だ。

何処となく以前このセーフハウスを利用した時と差異がある。鍵穴に傷は付いていないし、パッと見は誰の痕跡もない。けれど、中原の野性的とも云える勘は“誰か”の存在を告げる。

一瞬だけ開けるか迷い、結局普段通りを装って玄関を開けた。もし襲撃者なら中原の帰宅には気付かれている。下手に引き下がるよりも家の中で相手した方が色々楽だ――そう思ったのも束の間、上がり框に綺麗に揃えられてる一足に詰めてた息を吐き出した。

見慣れた意匠の、見覚えのない靴。何年経っても好みは変わらないらしい、と何度目かになる感想を胸にリビングへと向かう。


「ただいま。やっぱり夏也か」

「お帰りなさい。……お邪魔してます」

「おう。不法侵入なんざ珍しいじゃねェか」


入口に背を向ける風に設置してあるソファに座し、何処か沈んだ声ながらも片手に持つコップを揺らして返事をしてくるのは予想通り夏也で。

電気も点けない暗い部屋だが、月明かりに照らされてるお陰で視界には困らない。ちらりと見た夏也は寛いでる、とは云えないが気は張ってないのは伝わって来た。

しかし、珍しい。不法侵入の常連は太宰であり、夏也は基本的に連絡は入れてくる。だが、端末を見ても連絡は入ってない。外套と帽子を掛け、夏也の隣に座ると漸く彼の顔が見えた。


「……ごめん。一寸……あー、いや、忘れてた」

「構いやしねェよ。何飲んでんだ?」


相も変わらず顔色の悪い夏也の頬に手を滑らせ、薄い頬を撫でる。猫のように目を細める彼から特に拒否の言葉は出て来なかった。

じっと夏也の顔を眺めて、グラスを持つ手の反対側の手首を掴んだ。数刻前に心の臓が止まった時とは違い、血の通った仄かな温かみが感じられる。トクリ、トクリ……小さい鼓動も夏也が幻ではなく現実に生きてる事を証明している。


「チリワイン。値段の割に美味しい」

「……ワイングラス有ったよな?」

「有ったねぇ。喇叭飲みしてないだけ良いと思って」

「ンだよ、ご機嫌斜めか?」

「……別に。機嫌が悪い訳じゃない」

「夏也」

「なぁに」

「お帰り」

「……ただいま」


先程とは逆の挨拶をして。

中原はそっと夏也の後頭部を引き寄せ、互いに瞳を閉じる事なく吐息を交換した。

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みゃあ(プロフ) - 狐猫音。さん» 度々のコメントありがとうございます!少しでも楽しんで頂けたのなら作者冥利に尽きます。お言葉の一つ一つが物凄く嬉しいです。読んで頂き、ありがとうございます。 (2018年12月26日 14時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
狐猫音。(プロフ) - 限定公開……!クリスマスは楽しいですね。番外編という最高のクリスマスプレゼントをありがとうございます。とても楽しんで読むことができました。これからも更新頑張ってください。 (2018年12月26日 12時) (レス) id: 1402817ddd (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - myuさん» 有り難いお言葉です……!展開に自信なかったので少し安心しました!更新頑張ります。 (2018年11月4日 11時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
myu - とっても面白い作品です。更新頑張ってください (2018年11月3日 16時) (レス) id: fe06e07095 (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - ЯRさん» コメントありがとございます!そう言って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます! (2018年8月8日 15時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みゃあ | 作成日時:2018年4月30日 21時

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