弐百漆拾捌 ページ4
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穏やかに寄せては返す海面を視界に収めつつ、意識は視力の及ばない空の上に飛ばす。ぽかぽかとした日差しを柔らかな髪で受けながら二人の少女は湾港に座っていた。
港に全く馴染まない洋装に身を包み、仲良く手を繋いでいた少女らはふと届く足音に同時に振り向く。鏡合わせになる様は人形と遜色ない。
「あれ?」
「久し振り?」
少女ら――アリスとイーディスは振り向いて直ぐに首を倒す。大人びた口調が常の彼女達ではあったが、発せられたのは幼さが全面に出された驚きの声音。
珍しい髪色を海風に遊ばせて、アリスは久方振りに会う男に、イーディスは空へと注意を分散させる。二人共顔は向けているが、意識の向く所は微妙に違う。警戒と索敵が出来る、彼が施した教育。
リデル姉妹はとある例外を除き、彼の意思に背いた事はない。今後、背く予定もない。……彼女等が定めた“例外”以外では。
「よッ、二人共。相変わらずか?」
なんて姉妹の注意の方向なんてどうでも良さげに近付くのは小笠原。
会う予定は無かったが、偶々近くに居たので顔出しも兼ねて声を気配を悟らせた。この姉妹も元は部下。彼奴は頑なに彼女達を『部下』とは云わなかったけど。
何故かね、と今更のように湧いた疑問を隅に追い遣り、少女達の髪を撫でた。
「ええ。お兄様が不在なくらい」
「貴方は? なんて野暮かしら」
どうせ偶然でしょ、と小笠原の手を其々取った姉妹は宣う。端から見たら年の離れた親子、或いは祖父と孫に見える牧歌的な光景。
けど実情は全く違う。小笠原と姉妹は人類の歴史規模で遡らないと関係なんてない。姉妹だって擬似的な“姉妹”。彼が気紛れを起こさなければ訪れなかった奇妙な関係性。
皆共通するのは両の手が落ちない血に染まってることくらいか。
「まぁ、偶然だな。お前等こそ何してンだよ。空なんか眺めて」
「空に用はないわ」
「“鯨”を待ってるの」
「お兄様が絶賛した、鯨」
「けど、お兄様の趣味から外れた鯨」
「彼奴が、絶賛?」
聞いてねェ、と小笠原はぼやく。空に漂う鯨の存在は知っていたが、真逆お気に入りになってた上に、嫌な物に急降下してるだなんて考えもしなかった。驚きの二段重ねに見舞われ、思わず空を仰いだ。
「それはそうよ」
「だって貴方は居なかったもの」
釣られて空を見る姉妹の声は呆れてる。小笠原が何を思っているかなど知ったこっちゃない。ただ、小笠原が居ない間にも時は進んでいた事を姉妹は知っている。
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みゃあ(プロフ) - 狐猫音。さん» 度々のコメントありがとうございます!少しでも楽しんで頂けたのなら作者冥利に尽きます。お言葉の一つ一つが物凄く嬉しいです。読んで頂き、ありがとうございます。 (2018年12月26日 14時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
狐猫音。(プロフ) - 限定公開……!クリスマスは楽しいですね。番外編という最高のクリスマスプレゼントをありがとうございます。とても楽しんで読むことができました。これからも更新頑張ってください。 (2018年12月26日 12時) (レス) id: 1402817ddd (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - myuさん» 有り難いお言葉です……!展開に自信なかったので少し安心しました!更新頑張ります。 (2018年11月4日 11時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
myu - とっても面白い作品です。更新頑張ってください (2018年11月3日 16時) (レス) id: fe06e07095 (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - ЯRさん» コメントありがとございます!そう言って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます! (2018年8月8日 15時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みゃあ | 作成日時:2018年4月30日 21時