弐百玖拾捌 ページ25
「……あ、れ……?」
戸惑いを多分に孕んだ声に夏也自身も驚きながら見知った天井を眺める。
ここ最近馴染みになってきた探偵社の医務室に寝かされている現状を脳は受け入れているが、色々追い付いていない。
何故だか非道く長い、とても疲れる夢を見ていた気がする。それを思い出そうとしつつ、ふわふわ覚束ない身体を如何にか起こすとタイミング良く白い仕切りが開かれた。
「おやァ? 漸くお目覚めかい」
「……よさの、せんせい」
上手く焦点が結べないが、声と状況からして与謝野だと判断した。掠れた声で応じればにんまり笑った与謝野に軽い問診と触診をされる。
瞳孔、脈拍、瞼の裏。舌の様子と、ついでとばかりに検温。
抵抗するのも怠いのか、夏也はされるが儘だ。伏し目がちなのはまだ完全に覚醒してないからか、それとも重度の貧血故の睡魔からか。何方にしても与謝野の予想を上回った目覚めな事に変わりはない。
なんだか全体的にふにゃふにゃしている夏也だが、触診に異常はなく、此方の簡単な問いにもスムーズに答えてくる。
歳はあまり変わらぬ筈だが、これが若さか……とつい与謝野が遠い目をしたのは余談である。
「意識はハッキリしてるね。気分は?」
「……多分二日酔いってこんなのかなぁって」
「頭痛、吐気、怠さ、目眩。一番非道いのは?」
「あー……頭、ですかね。怠いけどこれは貧血の怠さかと」
「そうかい。気休め程度とは思うが薬は?」
「遠慮しときます。鉄分の方が嬉しいな」
「というか、水あったら頂けませんか」と渇いて痛むのか喉を擦りながら申し訳無さそうに顔を歪める夏也。
そう云えば声が掠れてるな、と与謝野は手にしたまま渡しそびれていた飲料を手渡した。力が入らない事も見越して既に蓋は開けてある……どころかストローを差してある。
誰の仕業かは夏也が一番良く分かっているだろう。小さな驚きのあと、妙な甘さを含んだお礼を云われ何となく落ち着かなかった。
「それもそうだ。アンタ、此処ンとこ血ィ流し過ぎだよ。本当なら輸血したいくらいなンだけどねェ……。そうもいかないんだろう?」
「……ええ」
「難儀なこった。解ってんなら気を付けて欲しいもンだよ、全く」
与謝野の苦言には失笑を返して、夏也は目線だけ周りにやって蓬髪を探す。普段ならそばに居そうなものなのに何故だか居ない。あまりキョロキョロすると気持ち悪くなりそうなので、大人しく彼女に尋ねた。
「与謝野さん、太宰は?」
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みゃあ(プロフ) - 狐猫音。さん» 度々のコメントありがとうございます!少しでも楽しんで頂けたのなら作者冥利に尽きます。お言葉の一つ一つが物凄く嬉しいです。読んで頂き、ありがとうございます。 (2018年12月26日 14時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
狐猫音。(プロフ) - 限定公開……!クリスマスは楽しいですね。番外編という最高のクリスマスプレゼントをありがとうございます。とても楽しんで読むことができました。これからも更新頑張ってください。 (2018年12月26日 12時) (レス) id: 1402817ddd (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - myuさん» 有り難いお言葉です……!展開に自信なかったので少し安心しました!更新頑張ります。 (2018年11月4日 11時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
myu - とっても面白い作品です。更新頑張ってください (2018年11月3日 16時) (レス) id: fe06e07095 (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - ЯRさん» コメントありがとございます!そう言って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます! (2018年8月8日 15時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みゃあ | 作成日時:2018年4月30日 21時