弐百捌拾玖 ページ15
「ここじゃよ」
「……騒がしいですね」
支えてもらうどころか、九割方運ばれる形で操舵室に足を踏み入れた。大声で言い争っているのは甲板に居たと思われた中島と芥川だろう。
フィッツジェラルドがこの場に居ないのは承知の事だが、彼が保持していた制御端末は如何なったのだろう、とメルヴィルに寄り掛かりつつ夏也は思考を倍速で回していく。
流石に制御端末をフィッツジェラルドと共に海に落とす愚行はしない筈だ。中島と芥川が此処に居るのなら、考えられるのは一つだ。
――制御端末を経由して、機関部制御を奪われている。
「……退いて。奪い返す」
状況を把握して足早に装置に近付く。声の主に驚き、道を譲るがその姿を捉えて中島は叫ぶように名を呼んだ。
「な、夏也さん! ご無事でしたか!」
「何とかね。君達こそ生きてて何よりだよ」
忙しなく盤上の手を動かしながら、夏也は答える。中島は血塗れだし、芥川もズタボロなので甲板で戦いは熾烈だったのだろう。下手したら彼等が死に目に会うかも知れない、と感じていたけれど。
珍しく真面目な、一種の緊張感なんてものを全面に出しながら夏也は瞬きの内に考察し、サブコンソールを弄り続けた。
「そうだ、夏也さん、この儘じゃ船が!」
「街に激突するね」
「激突するねって……。そんな悠長にしてる場合ですか!?」
「……龍。何秒前に止めた」
「凡そ一秒前になります」
「……そう。一秒前、か」
「結論から云えば再浮上の可能性は無いに近い」
「そんな!」
「黙れ、人虎。……万策尽きた、と?」
「……今、この瞬間の俺に出来る事は無い。がい――」
外部からなら、と続けようとしたのと同時に入った通信から「未だ方法はある」、と毅然した少女の声。
聞き覚えは当然ある。無人機に幽閉されていた泉だ。
『そちらの状況は聞いた。白鯨の再浮上は無理でも、大質量で無理矢理叩き落とせば街に届く前に墜落させられる。この無人機を衝突させる』
「そうか! 凄いよ、鏡花ちゃん。これで皆助かる!」
この状況でも動じることなく、揺らがない少女の打開策はとても頼もしい。鯨は街に沈まない上に、其々が脱出出来れば死者の数もぐっと減る。
漸く見えた光明に中島は表情を明るくした。何やら電子盤で作業している夏也には悪いが、これなら丸く収まる。
「鏡花ちゃん、君も疾く脱出するんだ」
『無理』
「……え?」
――筈だった。
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みゃあ(プロフ) - 狐猫音。さん» 度々のコメントありがとうございます!少しでも楽しんで頂けたのなら作者冥利に尽きます。お言葉の一つ一つが物凄く嬉しいです。読んで頂き、ありがとうございます。 (2018年12月26日 14時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
狐猫音。(プロフ) - 限定公開……!クリスマスは楽しいですね。番外編という最高のクリスマスプレゼントをありがとうございます。とても楽しんで読むことができました。これからも更新頑張ってください。 (2018年12月26日 12時) (レス) id: 1402817ddd (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - myuさん» 有り難いお言葉です……!展開に自信なかったので少し安心しました!更新頑張ります。 (2018年11月4日 11時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
myu - とっても面白い作品です。更新頑張ってください (2018年11月3日 16時) (レス) id: fe06e07095 (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - ЯRさん» コメントありがとございます!そう言って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます! (2018年8月8日 15時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みゃあ | 作成日時:2018年4月30日 21時