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「あれ、茜?」


とある夕方。

小笠原が保護ビジネスの契約更新を主とした外回りから帰ってくると、身重の茜の為だけに設置された長椅子に腰掛ける張本人が座していた。

部下達が(勿論小笠原も)あーでもないこーでもないと云いながら相談し、金を出し合って購入した長椅子は茜から喜ばれたのは記憶に新しい。

楽な姿勢で書類片手に手を振る彼女に近寄れば、お帰りと云いたげに微笑み、小笠原が何か云う前に茜が口を開いた。


「お疲れ様、善平! 本部で会うのは久し振りね。今日ウチ来る? お隣さんから大根貰ったんだけどさ、二人じゃ消費出来なくてさー」

「茜」

「鰤大根、好きだよね? 竜君も今日は帰ってくるし、善平も暇でしょ。手伝ってよ。んでもって持ち帰って。なんなら森さんも――」

「茜、なんでお前は出会い頭に毎度律儀にマシンガントークかましてくるんだ」

「良いじゃない。静かな私なんて逆に怖いでしょーが。で、どうするの?」

「新婚夫婦の家に来いって云うのはどうなんだ?」

「何を今更。竜君にはもう善平来るって云ってあるし。そしたら日本酒買って帰るって連絡あったよ? 人が呑めないのに宣言してくるあたり、竜君の喜びようが分かるでしょ」

「端から俺に選択肢無ェじゃん。鷗外は暫く診療所ッて云ってたから放置で」


気遣いに関しては竜一の右に出るものは居ないと知ってるだけに驚きは大きい。が、歓迎されてるのはひしひしと伝わってくるので悪い気はしない。


「森さんも忙しいのね。この前のお礼に、って思ったのに。竜君と善平だけで何処まで使えるかなぁ。あっ、ふろふき大根なら肴になる? 何か作って欲しいのある? 大根限定で」

「大根限定かよ。無難にジャコと梅でサラダは? 生なら竜一がエンドレスで食うだろ」

「切るのが面倒臭いのよ。妊婦舐めてた」

「そンくらい俺がやる」

「珍しいわね。気使わせちゃったかな?」

「茶化すなよ、茜。やけに誘うッて事は何か合ッたんだろ」

「……バレたか。フフッ、大丈夫よ。善平にとっても悪い話じゃないわ!」


寧ろ良い話なの、と機嫌良く笑みを浮かべる茜に何故か不安が広がる。

自分にとっても良い話、とは云うがそれなら態々自宅に招かなくてもいい筈だ。婉曲的に良い事なのか、もしかしたら実は悪い事なのかも知れない。

様々な可能性がえらい勢いで脳裏を走ってくのを感じつつも、部下の為ならどんな話でも受け入れようと妙な決意を胸に喋り倒す茜に相槌を入れるのであった。

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作者名:みゃあ | 作成日時:2018年1月15日 21時

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