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小笠原のポカンとした面を肴に猪口を開けては手酌する、を繰り返していると理解が追いついたのであろう小笠原がふっと和らいだ笑みを浮かべる。
「ははッ、一本取られたな。確かにそうすりャ俺は何処にも行けねェよ。約束は守るもンだからなァ」
男の案は至極簡単で何故その発送に至らなかったのか、と思うが彼だからこそ云えたとも思う。
茜達が小笠原を心配して出勤してくるのならば、逆に彼が夫妻の元に週決めで通えば良い。予め彼等と予定を組んでおけば反故する事を嫌う小笠原は守らざるを得ない。
「俺自身への制約も出来て、茜らの杞憂も晴らせる。昔からお前の案は外れがなくて羨ましい限りだぜ」
流石俺の戦友、なんて向かいに座る男の肩を叩けばやんわりと振り払われた。けど、そんな事で気分を害す関係ではない二人はもう次の話題に移る。
「それで、子供の性別は?」
「調べて無いッて。楽しみにしたいから黙ッてろッて医者の事脅してたわ」
「……そうか。第一子なのだろ? 母子ともに健康であれば良いが」
「まァ、その辺は茜の事だから心配無用だな。細身な点は気掛かりだが、体作りはしたとよ」
グイッと残りの酒を飲み干し、地酒をローラーし始める。なんてこと無い風に振る舞い、部下達に喝を入れる小笠原だが、意外な事に彼が一番浮かれている。
茜と竜一には全力で伏せているが、小笠原の管轄区域では出産祝いと御祝儀は当然として如何に安心して子育てをしてもらうかにまで話は飛び、現在計画及び準備中なのだ。
これを後方支援してるのが発端者である小笠原。普段使わない地位と権力をこれでもかと使い来たるべき日を待ち望んでいた。
と、まぁ、そんな訳で。体裁も外聞もなく、自慢の部下を遠慮なく自慢出来る友が居るのだ、少々酒の入りが良くなるのは目を瞑って欲しい。……なんて。浮かれ気分を抑える為に呼んだ友人に僅かな申し訳無さはあるのだけど。
そんなことより、だ。小笠原が浮かれ気分を封じ切れないのにはもう一つ訳があるのだ。
「それより聞けよ、凄ェンだよ」
「なんだ」
「第一子ッつたじャん? 性別は調べてなくてもよ……付ける名前の数は増やさないといけなくなッた」
どういう意味だ、と男は問い質す。
小笠原がキラキラと少年じみた笑顔を見せるのは正直珍しいを通り越して薄気味悪いものがあるのだが、指摘する事なく答えを待てば宝物をみせるかの様に返事を寄越した。
「――双子だよ」
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作者名:みゃあ | 作成日時:2018年1月15日 21時