第40話 いびつと焦げ ページ41
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それから暫く。
最後のパイシートを重ねるところは、私と蘭がやらせてもらえることになり、若干歪だったけれどなんとかパイらしきものが出来上がった。
「あとは暖めておいたオーブンで焼くだけで完成よ、二人とも凄く上手だったわ」
「良かった。ね、A」
「うん。楽しみだね」
レモンとアーモンドの甘い香りが充満するキッチンから出る。リビングではおじさんが皆と一緒にお酒を飲んで歓談を楽しんでいた。
その輪の中にいたコナン君が、私がリビングに入ってくると椅子から降りて、こっちにやってきた。
「A姉ちゃん達、なにしてたの? お腹すいてない?」
「うん、さっきちょっと食べたから」
レモンパイが焼きあがるまではもう少し時間があるので、私も席についてに料理を頂くことにした。蘭がコナン君の隣に座り、私も蘭の隣に座る。
すると、右側に座っていた園子があたりを憚る声で話しかけてきた。
「A、それで守備はどうよ」
「守備って?」
「先輩に新一君のこと聞いたんじゃないの?」
「え…うーん…まあまあ」
正直にいうと、私が知らない新一のことを聞くのが少し怖くて、私はあれ以降新一については麻美先輩に話を持ちかけられなかったのだ。
なーんだ、とがっかりした園子は肩を竦めてみせた。
パイが焼きあがり、私と蘭は期待を持ってオーブンからレモンパイを取り出した。しかし焼く前はそれほど目立たなかった、上に重ねた生地の歪みが大きくなっていて、完成品は少々不恰好な物だった。
「なんか…先輩のと全然違うね?」
「うん…焦げ目もついちゃってるし…」
「あら、でもいい匂いじゃない。上出来よ」
それじゃ運びましょ、と言われてプレートに移して、私がそれを持ち上げる。
リビングに行くと、先輩のレモンパイだと思っているらしい東都大の皆さんが「おぉ!」と歓声を上げた。
しかしテーブルに置いたその歪なレモンパイを見るや否や、皆驚いてそれを覗き込んだ。
「これホントに麻美が作ったのか?」と沢井さんが尋ねてくるので、私は苦い笑みを浮かべた。
「いえ、私達が作ったんです。でも初めてで…」
皆、やはり麻美先輩のレモンパイが食べたかったらしく、「麻美君のパイは?」と森本さんが続けて尋ねてきた。
やっぱり、冷蔵庫にある麻美さんのパイと取り替えたほうが…と私が思ったところで、麻美さんが「それがうっかり忘れちゃったんですよ…」とフォローをいれてくれた。
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FenGkaz710(プロフ) - 2章楽しみ (2020年6月16日 19時) (レス) id: 760679ded1 (このIDを非表示/違反報告)
琴葵(プロフ) - 面白すぎたのでシリーズ化していると思いました……。面白過ぎます!!!更新応援しています!!!シリーズ化大希望です!!!!! (2019年12月6日 3時) (レス) id: b0ea0349a7 (このIDを非表示/違反報告)
Akiko Tanei(プロフ) - 首を縦に触るのではなく、『振る』ではないですか? (2019年9月8日 11時) (レス) id: acbd1e9f39 (このIDを非表示/違反報告)
? ????? ?(プロフ) - 第1章おつかれさまでした!すごくすごく続き楽しみにしてるので更新早くして欲しいです(>_<) がんばってください!!♪ (2019年8月9日 1時) (レス) id: e7d5c65650 (このIDを非表示/違反報告)
ぽにー(プロフ) - 茅架さん» 作者様本人ではなくすいません。その文書は合っていますよ!"違わず"というのは"たがわず"と読み、間違わずと言う意味です。 (2019年8月1日 1時) (レス) id: 2d86003c92 (このIDを非表示/違反報告)
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