ブリード本丸 "三"

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大倶利伽羅が私の後ろに立っていた







「うん……」





出来るならば、この楽園にいて欲しかった




何も知らずにぬるま湯に浸かっていて欲しかった







パンドラの箱を開けて欲しくなかった









「大倶利伽羅も寂しいか？





また、一人居なくなって」





「…………」






返事はない




ゆっくりと大倶利伽羅がAに近付く







大倶利伽羅は服の裾で





Aの涙を優しく吸い取る






「……、






年取ると、涙脆くなっちゃうな…………






横柄な態度も、似合わなくなるし…………









……………………そう思わないか？」






大倶利伽羅を見上げると





大倶利伽羅はいつも通り無表情で









「泣くな」




と言った








現世に一度、持っていった大倶利伽羅






顕在した時には、何も話さず




何も聞かず





彼はただ、私のやる事に従った







全て知っているように思えて





敢えて説明したいことでもなくて








私は何も、彼に話してこなかった








ブリード本丸というものがあるのも





それが、自身の話である事も





生まれた子供たちがどのような目に遭っているのかも





何も話さない








そして、私が神子である事も









この本丸は、Aにとっての楽園(エデン)だった





刀剣達に子どもを育てさせ




全員で料理や馬の世話、畑を耕す




子供に鍛錬をつける者もいる








神子は一歩外に出れば




かなりの確率で誘拐に遭う







ブリード本丸を潰した事で





神子の価値が高騰しているのだ








神子は一般人に紛れると分かりやすい





人間にはない色の髪や目をしている者が多いからだ









そして、まだ、




神子の人権獲得はなっていない









「ねえ、A！青の一の名前は！」





子どもが四、五人集まってAのそばに来た





ここを出て行く神子には名を与える





逆境になっても揺らぐ事ない自分自身を持ってもらいたいと思って









「"空"だよ」





外の世界は理不尽な事で溢れている




物語の救世主は現実では全く現れない




彼らは必ず、絶望を味わうだろう








だから、どうか





自分自身だけは見失わないでほしい







そして、出来ることならば



人間を許してやってほしい









私には出来なかった





許すことが、出来なかった









END

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