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医者の顔に殴りかかっていたのは知っていた。
それは私の検診が終わった直後の事で、お医者さんと彼だけで話がしたいと医者に言われたので、私は一人で診察室の外のソファに腰かけていた。暫くの間があってから女性の叫ぶ声と彼の怒鳴り声が聞こえた。同時に何かが倒れる音も聞こえた。
私は驚いて診察室のドアを開けようとした。すると、ドアノブに触れる前に医者が出てきた。お待たせしました、と言う医者の右頬は何故か赤くなっていた。そして、どしどしと彼が歩いてきて医者を煩わしそうに退かした。それを医者は悲しそうな目で見ていたが、彼はそのまま突き進んで行ってしまった。
どうしようか悩んだ末に、私は医者に一礼をして彼の後を追った。
彼の横に並ぶ時には私の息は上がっていた。それを彼はすまんと言って、私が落ち着くまで背中を擦ってくれた。
そして、何があったのか聞いた。いきなりどうして殴ったのかなどという、核に迫ったことは聞かなかった。理由はどうであれ、誠実な彼が理由もなしに人を殴る訳がない。況して、医者と言っても彼の友人だ。診察の時も良く冗談を言い合っていたのを覚えているし、この病院を受診しているのも彼の勧めだった。
｢お前には関係あらへんよ｣
ぐいっと頭を撫でられて、顔をあげられなかった。けれど、どんな表情でそれを言っているのか大体は想像が出来た。本当にどうしようもなく私のことが大好きなのだろう。
｢先生はなんて？｣
顔をあげずに言うと、少しの間があってから返事が返ってきた。
｢女紹介したるってほざくから断ってきたわ｣
｢男前じゃーん｣
それで一発いれたったわ、と言った彼に合わせた。先生噂いっぱいあるもんね、と彼を肯定し続ける。それが今の私に精一杯出来ることだと思った。たぶん彼を否定すれば意図も簡単に彼は壊れてしまう。
それでも、言いたいことは言いたかった。彼が壊れてしまっても、また立ち直れるように。
｢でも、私が居なくなったら本当に良いよ。違う人と幸せになってね｣
顔を上げると思っていた通りの顔をしていた。
夏の日差しで焦げた健康色。快活な目に口元が、歪んでいて、とても申し訳なくなった。
｢……縁起でもないこと言うなや｣
｢えへ。ごめん、ごめん｣
いつまでもが続けば、何も言わなくて済んだのだろう。
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コットンの森(プロフ) - トクメイキボウさん» 嬉しいお言葉に心臓がぎゅっとなりました。純粋に嬉しくて何回もコメントを見返しちゃいます。無い文才を捻り出した甲斐がありました。短編は長編が終わり次第再開が出来ればと思っています。お読み頂き、そしてコメントありがとうございました！ (2019年3月31日 17時) (
レス) id: c3504fefeb (このIDを非表示/違反報告)
トクメイキボウ - コメント失礼します。完結おめでとうございます。実は貴方様の作品を以前から拝読させていただいておりました。貴方様の創る世界観が大好きです。短編集が終わるのは悲しいですが、長編の方も引き続き応援させていただきます。頑張ってください。コメント失礼しました。 (2019年3月31日 16時) (レス) id: 9fdc769b3d (このIDを非表示/違反報告)
コットンの森(プロフ) - パピヨンloveさん» しばらくログインしていなくて今しがた気づきました…。返信遅くなって申し訳ありません。題名は｢かくかくのさいじょ｣と読みます。赫赫で赤々と光輝く様や、業績や名声が輝かしく現れる様などの意味があります。個人的にそういう女性が好きなので題名につけました。 (2019年3月10日 12時) (レス) id: c3504fefeb (このIDを非表示/違反報告)
パピヨンlove - 読んでいて、凄いと思いました！！これからも頑張って下さい！！ちなみに、題名ってなんて読むのでしょうか？ (2019年2月16日 14時) (レス) id: d07448dafe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：コットンの森 | 作成日時：2018年9月20日 0時
