シンデレラ・ディレクション《ars/k.n/0617》 (ページ43)

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Episode6 -8 ページ43

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腕時計の針をいくら見つめたって時間が変わることはない。

もしも、一緒にいるのが櫻井さんだったら、何も言わずに私の帰路に付かせただろう。

それは櫻井さんが私を部下だとしか思っていない証拠だ。

けれど。

「……すみません、無理なら無理って言ってもらって大丈夫ですよ」

困ったように眉を下げている二宮さんは、私に好意を伝えてくれる人だ。

「……いいえ、一杯だけ、コーヒーでも飲みませんか」

私は時計から顔を上げると二宮さんの目をまっすぐに見つめて言った。

飲む、の意味は違ってしまっているけれど。

今回ばかりはそこには目を瞑る。

少しでも、このまま二宮さんと話をしたかった。

「いいんですか？」

「はい。…私も、今なら思いつきそうな気がしてます。これは、仕事のために必要です。……門限があるので、長い時間は無理ですけど」

言い訳するみたいにそう言った私に二宮さんは嫌な顔一つせず嬉しそうに笑った。

「いいですよもちろん。俺だって、ちゃんと仕事のことも考えてますから」

少しだけですけどね。

そう付け足して二宮さんははにかむ。

私はそんな二宮さんに腕を引かれるまま近くのコーヒーショップに足を踏み入れた。

考えていたのは時間のことじゃなくて、智兄さんへの言い訳だったことを私はちゃんとわかっていた。

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