シンデレラ・ディレクション《ars/k.n/0617》 (ページ28)

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Episode4 -6 ページ28

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「なんでもないよ。楽しかったですって話してただけ」

「そうか」

櫻井さんは二宮さんの言葉にそれ以上何も言わずに簡単にうなずいた。

それから鞄を持ち替えてぐるりと首を回す。

「さて、帰りますか」

そう言うと櫻井さんは二宮さんの背を押して先に歩き出した。

お金がどうのなんて話が聞こえてくるから、二宮さんは飲み代を櫻井さんに払うつもりなのかもしれない。

私は一人、二人の後ろからついていく。

時々私に話を振ることを忘れない櫻井さんは、いつのまにか私の隣に来て、二宮さんとの間に立ってくれていた。

こういうところ、櫻井さんがモテるのもよくわかるなぁと私は思う。

「それじゃあ大野、ニノ、また月曜日に」

「翔ちゃんもお疲れ様。じゃあAさん、また仕事で」

「はい。櫻井さん、二宮さん、お疲れさまでした」

二人と別れて満員電車に揉まれながら最寄り駅で降りる。

駅の外に出てようやく、私は大きめのため息をついた。

忘れていたわけではなかった。

ただ、唐突でピンと来ていなかったのだと思う。

二宮さんが私を好きでいてくれているという事実は、私にとってまだ日常に馴染むようなものにはなっていないのだろう。

星のない空はどんよりと地上に圧をかけている。

その下をゆっくりと、私は智兄さんと門限の待つ家へと歩き出したのだった。

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