21−口付け ページ21
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落ち葉に紛れる白銀の脇腹は血に塗れている。
彼女がさっと蹲み込んで彼の首を抱けば、震えた睫毛の奥の瞳がその今にも泣きそうな顔を捉えた。
「さねみ、…っうう、オオカミさん…!!」
「…来んのが、一日…早ェぞ…」
「貴方を驚かそうとしただけなの…っ
こんな事なら、私来なければ…!」
「良い、…そんな事、言うなァ…」
どんどんと生気を失っていく瞳。
そんな彼を必死にAは胸に抱き続けた。
「…俺は…ずっと、お前に隠してた事がある…」
「……何…っ?」
「俺は…呪いにかけられた…人間だ…20歳までに呪いを解かなけりゃ…俺は一生オオカミのままで…どうしようもねェ絶望に、俺は人の心を…失い始めてた…」
「…っそんなこと、ない…」
「…本当は…もう人間なんてうんざりだって、思ってたんだけどなァ……お前と出会って…心の底から、人間に戻りてェと…思った」
弱々しい前足がAの頬を目指して差し伸ばされる。
Aはすかさずその前足を頬にかざした。
「明日になりゃ…俺はもう二度と人間には…戻れなかったんだ……このまま終わっても、本望だ…」
「…っいや、行かないで…!」
「最後に、お前を守れたんだァ…会えて良かった。最後に、一目だけ…」
「ッ駄目よ…戻ってきて…! 一人にしないで」
「_まだ…伝えて、なかったことが…ある、」
「_愛してる、A」
幸せそうに笑って目を閉じたオオカミ。
静けさが森を突き抜けて、Aは彼の頬を撫でる。
「_…私も愛してるわ」
動かない彼の耳元で囁き、そっと口づけを落とした。
その時、ぽつ、と彼の身体に滴が落ちる。
そしてそれは切り口となったように雨が降り出した。
季節外れの雨。
それは乾燥していた森に潤いをもたらす。
「…おかげで、泣いてるのがばれないわ…」
心配するように彼の肩元に寄る朝の小鳥。
「貴方達も…このオオカミさんが大好きだったのね」
そんな寂しい彼女の声に呼応するようにチチ、と小鳥は鳴いた。
「…彼が安らかに眠れる場所を作ってあげましょう」
頬を濡らす滴をぐいっと拭った彼女は、自身の手編みのマフラーを箱から取り出して彼の首に巻く。
そして動物達と共に雨の森を、彼への弔いの花を摘みに歩き出した。
「……え……?」
__数十分程経って、Aがその場に戻ってきた時。
確かに居た筈の彼の姿は、どこにもなくなっていたのだ。
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えん - 実弥推しだったので、すごく嬉しいです!リクエストできるなら、白雪姫の夢主と王子の実弥、鬼滅キャラの七人の小人、見てみたいです! (2021年6月3日 20時) (レス) id: dfa45071da (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - 実弥オオカミ!素敵です!リクエストしたいです!何だっけ?獣の子?の主人公を女にして師匠を実弥に、で恋物語に…それかオオカミ子供のアメとユキ?かジブリのハウルパロディ、もし叶うなら小芭内をお願いしたいです、玄弥、小芭内のお話ラブなのがなかなか無いので (2021年3月13日 14時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
めあり - 鬼滅版シンデレラですね (2021年2月14日 4時) (レス) id: ca5a6634ce (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 湯海さん» 湯海様、最後までご愛読ありがとうございました!沢山うんうんと悩んだ結果の役ハメでしたので、そう言って頂けて努力した甲斐がありました…!この作品での実弥王子は本当にまっすぐでありながらもあざとかったですね……それすらも愛おしい(錯乱) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ayaさん» コメントに気付くのが遅くなってしまいました、すみません!aya様、こんな所にもコメント残して下さってたんですね…!ありがとうございます!aya様を幸せにする小説を作り上げることができて嬉しいです(^^) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年5月31日 17時