あなたはオオカミ 【不死川実弥】

18−祝杯 ページ18

.





仕方なく欠けたスープの皿を拾い上げる。
なんて勿体無いことを…。

こんなのは何度もある。
…だけど気が苦しくなるのは変わらない。





「あら、貴方の持ってるそのスープは何？ 他に誰か居る？」

「私のです」

「まぁ、食事をだめにしておいて自分は一緒に食べるなんて。
仕事が済んでからよ」





そう奥様が言うなり、スープを落とした姉様が私の手にあったスープ皿を奪ってしまった。
そこにもアーモンドが落としてあるのに。

今度はアーモンドをスプーンで避けて食べ始めた。

わざわざ落としたのは、私への当て付けだ。






「仕事が終わったら私の部屋に来て頂戴。ドレスにアイロンをかけて」

「…はい、奥様」





心にぽっかり穴が空いたように悲しみが溢れてくるのを感じながら私はおぼつかない足で台所へ向かう。

酷いわ…。私が、彼女達に何をしたっていうの…？
ただ平凡に生きていただけというのに。



＿嘆いても仕方ないわ…。

つまづいた時には空を見上げたら良いの。
きっと勇気と優しさが私を導いてくれる。



お母様達と共に過ごした幸せな思い出がいっぱいのこの屋敷は、私が守ってみせる。





「＿＿奥様、アイロンがけが終わりました」

「随分遅かったのね。良いわ、そこに置いておいて」

「…おやすみなさい、奥様」





当然のように返事は返ってこない。
それはもう気にならなくなったけれど。


明後日は実弥オオカミさんの誕生日なんだ。
それに20歳ですって。

オオカミと人間は年齢の違いはあるのかしら。





「もしかして、人間でいうと物凄くおじいさんだったり…」





もし彼が人間の姿だったらどんな人なんだろう。
格好いいのかしら。それとも少年みたいになるのかな。

＿だけどどんな姿でも、私は彼を受け入れられる自信があった。





「ねぇ、ネズミさん達。…私って変かしら」

『どうしたの？』

「……彼に会いたくて仕方がないの」





動物に…それも、オオカミに恋をするなんてきっとどうかしてる。


でももうこの気持ちが抑えられないわ。
彼の存在が私を強くしているから。





「そうだ。明日の夜サプライズで早く行くわ！
12時丁度にお祝い出来るように」





そうと決まれば早くプレゼントを用意しなくちゃ。
何が良いかな。…やっぱり食べ物かしら？

ううん…編み物にしよう！
これから寒くなるから、彼にマフラーを送りましょう。


早く明日にならないかな！






.

19−漆黒に→←17−約束

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す