またこの島で。 ページ49
ビビッときた。
あの時、電話じゃなくてメールしてきてね。言った意味も、院長やいろいろな先生達が鬼嶋先生には電話じゃなくてメールをするのも。
そして鬼嶋先生の家にはテレビがなかった。
「だから私のピッチだけスマホなのよ。
スマホってさ。こうやって__」
補聴器の後に何やらコードを接続した鬼嶋先生。
「こうやって電話してるの。
これならカエちんからの電話も取れるね。」
「...そうですね!」
「便利な時代だよ全く。」
そう言って笑った鬼嶋先生は、ポリポリと頰を掻いた。
「あー...バイオリン弾きたいな〜」
「バイオリン?」
「お母さんが教えてくれてたんだよ。
手術後のリハビリの一環でね。
久々に触りたくなったってわけね。」
先生はバイオリンを弾く所作をした。
「やっぱり楽器は生音が一番。
混雑の音はだいぶ聴き慣れたけど、
機械から聞こえてくるピアノとかバイオリンとかはつまんないよ。」
___だよね。私もそう思う。
毎回当直が被ってライブに行けないBabyのピアノもきっと生音が一番なんだと思う。
「先生!Babyって知ってますか?」
「あぁ、知ってるよ?ピアノでしょ?」
そう言ってピアノを弾く真似をした先生。
「ライブ行ったことありますか?」
「...若い頃はシノリンなんかとしょっちゅう行ってたよ。」
シノリン...?
__シノリン?!
「え?!先生四宮先生と一緒にライブ見に行ったんですか?!」
「え?...あ、あ〜...
そ、そうそう。聞いたでしょ?昔はシノリン可愛い奴だったんだよ。ライブも一緒に来てくれたし…」
「えぇ?!そんなイメージないです!」
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翌週。
カエちんが泣きながらペルソナに帰った後、私はいつもの高台に来てアイスを食べていた。
「...晴れたな。」
「ですねー。」
「お前もゆっくり休め。」
「いやいやー、先生だって超頑張ってくれてたじゃないですかー。」
「...そんなことはない」
インクがハゲかかって茶色いベンチになっていたのに、今日訪れたらベンチは物凄く鮮やかな空色になっていた。
誰かが塗り直してくれたんだろう。
あのパリパリとした乾いたインクの感覚が好きだったのに。と残念な気持ちと入り混じって笑いが込み上げる。
背後からは先生の声がして、目の前には大きな水平
線。
めいいっぱい息を吸って、肺に空気を溜めた、
「いいですね島って。」
「そうだろ。
...お前そこペンキ塗りたてだぞ」
「もっと早く言えし!!!」
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作者名:長官 | 作成日時:2020年5月3日 17時