島のモンスター ページ40
島のモンスター、と鬼嶋先生が呼んだ人がいた。
あのお婆ちゃんはいつも鬼嶋先生に対して嫌がらせ紛いな事をするらしく、口をつけばよそ者よそ者と言って鬼嶋先生を毛嫌いしているようだった。
「ったくあの人、私をよそ者だとか言って言い掛かって院長にしか血圧も心音も見させないんだよ...
ムカつく...」
「そんなことないだろ？」
「ありますよ！！
ったく...いい加減にして欲しいですよー。
こっちは死ぬ気で往診してるのに。」
夕方、カゴに鞄を入れて自転車を押す院長とアイスを齧りながらグダグダと歩く鬼嶋先生の変なコンビに挟まれながら夕焼けが見える海沿いの丘道を歩いた。
「あの婆さん院長大好きだから。
...脳梗塞だなんだってなっても助けてやんねー、」
「...あはは...」
...よ、よく喋る...
ツッカケをパタパタと鳴らしてはムスーっと思い出してイラついている様子の鬼嶋先生。
「悪いな...こんな捻くれた奴で...」
愛想笑いをした私の心情を汲み取ったのか、院長は申し訳なさそうに覗き込んできた。
いい意味で院長らしくないと言うか、
ここまで医者と院長の距離が近いのも島ならではな気がしてすごく素敵だと思った。
「いやぁ...うちの院長も荻島先生みたいだったらいいんですけどね。」
「んぉ、心の声が漏れたか。」
「ははッ！そうですね！本音って奴ですッ！」
気づけば私はこの島の先生達と１日で打ち解け、
すぐに世間話ができるほどに距離を縮めた。
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「下屋せーんせ、寮がいい？私の家がいい？」
「へ？」
「帰る場所だよ帰る場所。」
「っあぁ！大丈夫ですよ！全然！そんなお気づいかい無くても！！」
「そうかいそうかい。じゃあ送ってあげるよ。」
そう言って鬼嶋先生は黒いセダンの助手席のドアを開けた。
「乗ってくださいマドモアゼル〜」
「あ...ありがとうございます...」
おずおずと車に乗ると、可愛らしい芳香剤がエアコンに刺さっていて、キーには何やら手縫いの小さなボロボロのぬいぐるみがついていた。
「...これね。
小児科に来てる子が私にくれたの。
これ私なんだって。可愛いでしょ？」
鍵をさしてエンジンをかけながら笑った先生。
乱雑に纏められた髪型も、少しシワになったシャツも、相変わらずサンダルなのもすごく似合ってて...
“ここの人”って感じがした。
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作者名：長官 | 作成日時：2020年5月3日 17時
