下屋いっきまーす ページ39
「そうして努力して到着した島は実に綺麗で、
緑も多く、水平線はどこまでも続き、
...それよりとにかく総合医である鬼嶋先生がとっても美人でした。
...なーんてね。」
「うぉわっ、びっくりした...」
物珍しそうに海を見る私の横に顔を近づけてきていたのは鬼嶋先生だった。
「きれーでしょ？
これが隠久ノ島から見える日本海。
あったかくて穏やかで。
これから８月下旬までは浜で遊んでる子達も見れるよ。パツキンボインのねーちゃんもねー。」
「興味ないですよ〜...」
「ハハ、知ってる〜」
こんなにひょうきんな女性なのか、と素直に驚いた私は身を引いて鬼嶋先生と距離を取る。
「下屋せーんせ、今から往診だから一緒に行かない？
院長もいくし。」
「いいんですか？」
「うん。地域医療の大切さ、学べるよ」
船酔いに車酔いの重なった私をしばらく医局で休ませてくれたA先生。
そこら辺は事前に鴻鳥先生から聞いていた通りに優しくて気遣いのできるいい先生だった。
「じゃ集会所まで競争ね！」
「えっ、ちょっ！」
「嘘嘘。ゆっくり行こうね。自転車で五分くらいだから歩いて十分もしないかな、のんびり行こうか。」
そう言って白衣を揺らして嬉しそうにスキップ寸前の鬼嶋先生は、小松さんから聞いたほど怖くなくて、
逆に鴻鳥先生から聞いたほどめちゃくちゃ繊細そうには見えなかった。
__________________________
「ヨネさん今日体温何度あった？！？！」
「えぇ？！...なんてぇ？！」
「たーいーおーんーなーんーどッ？！」
「３６.５だよ。ったく新入りはうるさいねぇ。
これだからよそ者は...」
「聞こえてんならシャキッと返事せんかね？！」
そこは戦場だった...
院長も、鬼嶋先生も大爆音でおじいちゃんおばあちゃんの体調を見ている...
「血圧高いからお薬出したいんよ！！
でもヨネさん飲むの忘れるやろ？！
やから、みきちゃんに渡しとくけぇ、ちゃんと娘の言うこと聞きなぁ！！」
そう言って診察書に“血圧！！！”と書いた鬼嶋先生。
__何もかも規格外でワイルドだ...
「下屋先生、キミコさんとヨネオさんとサダオさんの血圧測っといてー」
「キ、キミコ...よ、ヨネ...」
「紫のカーディガンの婆ちゃん、いい感じに禿げ上がった爺さん、お茶飲んでる爺さん。」
「はっ、はい！」
鬼嶋先生は私をアゴで使うと、その後またおばあちゃんおじいちゃん達の問診にシャウトしていた。
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作者名：長官 | 作成日時：2020年5月3日 17時
