なんとなく ページ37
その後、二歳から四歳までの教室は寝静まり、随分と可愛らしい寝息と小さな寝言が聞こえてきた。
ここで育ったというAは嬉しそうに柱に書いてある背比べの目盛りを指でなぞっている。
「...今からはかなり大変な状態を見せます。
ここは人手が足りていません。なのに年間百人以上の孤児が舞い込んでくるのです。」
そう言って鬼嶋が案内してくれたのは、新生児の部屋だった。
夜泣きは伝染し、施設員の女性は目の下に隈をいっぱい溜めて、それでも笑顔で赤ん坊をあやしている。
「あぁ!Aちゃん!いいところに来たね!
さあ秘伝の“泣き止ませの術”お願いします!」
そう言って鬼嶋を手招きするのはここの施設長である中谷さんだった。
何度か病院の小児科に顔を出しているところは見かけたが、話したことは数えるくらいしかなかった。
「あらまぁ...病院の皆さんも連れてきてくれたの?」
「暇そうだったし、紹介しておこうかなぁって思ってね。」
「「「暇じゃねぇわ」」」
「さあ、皆さん抱っこお願いしますね。」
___________________
「あれ...、先生って意外と不器用?」
「そんなことはないと思いたい...」
新生児室で夜泣きの戦に参戦した私たち。(というか私が先生たちをぶち込んだ)
病院の赤ちゃんの部屋なんて比にならないほど忙しく、職員のみんなも交代で夜泣きやおむつ交換に勤しんでいる。
一方で横にいる先生は...というと、
絶妙な抱っこを繰り広げている。
__普通とも下手ともいえない絶妙な抱っこの仕方。
「もっとこう...腕を枕にしてあげてくださいよ...
それじゃまるで娩出直後じゃないですか。」
「...案外難しいんだな...」
慣れた手つきで赤ん坊をあやす高橋先生や、研修医のミカちゃん。
「かわいいですね、
この子たちがもっともっと幸せになってくれるといいですね。」
「そうだよねー。
今も十分幸せなんだろうけれど、この子たちには幸せになる権利も、楽しむ権利もあるんだもんね。
私たち大人にはこの子達を幸せにする義務があるようなものだよ。」
腕の中で眠る赤ちゃんがもし、超健康体だったら、お母さんは今頃この子を愛せていたのだろうか。
「...君らの母親にはなってあげられないんだよ...」
小さい頃、実の血の繋がった父さんが迎えにきて、姉と二人でここを出た。
まるで誘拐されるような気分だった。
ここを出たくないのと、みたこともない大人に連れてかれて知らないところに。
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作者名:長官 | 作成日時:2020年5月3日 17時