帰ってきたぞ隠久ノ島! ページ2
「本当に行っちゃうの?まだ間に合うよ?」
「もう船出ちゃうから間に合わないかな。
それに小さいころから決めてたことだし。」
ペルソナで数年過ごした私は、その後ペルソナに残る選択をした鴻鳥や四宮とは別で、生まれ育った島に戻る選択をした。
大の仲良しだった同期ともお別れしてでも私は隠久ノ島に行って島のお医者さんになりたかったのだ。
船乗り場までついてきてくれていた鴻鳥はキュッと眉根を寄せて私に言った。
「またね、元気でね。」
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鴻鳥とお別れをして船で数時間、ついた島は大雨に見舞われていて、船着場から先は飛沫やら雨粒やらでよく見えない状況だった。
台風にはなっていないみたいでホッと一安心・・・なんてしてる暇はなく、船着場から病院まではほぼ手ぶらで豪雨の中全速力で走った。
ビタビタと音を立ててサンダルを動かし、コンクリートの上の水を跳ね返しながら船着場から一直線に走る。
船着場から病院までの道がまるで昨日のことのように思い出される感覚にワクワクとした高揚感にも似たようなものを感じながらただ走った。
「大丈夫かー?!」
しばらく走っていると、登り坂で遠くの方から声が聞こえた。
顔を上げてみれば、そこには昔からお世話になっていた隠久ノ島病院の院長が傘をさして自転車を押している。
向こうも急に降られたのだろう。
自転車のカゴに入った鞄はびしゃびしゃに濡れていて、スクラブも肩がびっしょりと濡れていた。
「入れ入れ」
と言って傘の中に入れてくれた先生はまだ私だということに気づいていないらしく、私の顔を見てもなんとも言わなかった。
面白くなった私はこのまま黙ってみることにして下を向いたままびしょびしょの服を絞りながら歩いた。
「どこまで?」
「隠久ノ島病院まで」
「どこか悪いのか?」
「あ、いや。新しく配属になったのでご挨拶に、と思いましてね荻島先生。」
顔を上げた私と、私の言葉にギョッと目を見開いた先生。
きっと荻島先生の記憶の中の私はまだ鈍臭い少女だっただろうか。
それが数年も経てばこうなるのだぞ。とでも言わんばかりの私に足を止めてしまった荻島先生は口を割った。
「身長はあんまり変わってないんだな」
「余計なお世話ですよ全く。」
黒い傘の中でもわかるくらいに嫌味ったらしい顔をした荻島先生は前よりか少し老けている気がしなくもなかった。
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作者名:長官 | 作成日時:2020年5月3日 17時