花の揺れる日 ページ27
冷静沈着に娩出を終えたAは涼しい顔をしながらも、術着の下は汗でびしょびしょだった。
額から伝う汗を拭いてもらうと、
子宮の収縮と止血に徹底した。
「...子宮の収縮が弱い...まずいな...」
ぼそっと呟いたA。
「収縮剤追加、」
荻島の一言に、頷いて収縮剤投与をした麻酔科医。
Aはその姿を一瞥すると、目の前にある鮮血に溢れた臓器に手を入れ、収縮具合を見ていた。
「よしよしよし...」
収縮が見られ、安定し出した容態に言葉をこぼしたA。
「縫合します」
「待て。」
そう言って手を掴んだ荻島。
「出血が多い」と言いたいのだろう。
Aはじっと荻島の表情を読み取ると、
少ししてから口を割った。
「子宮を残すにはこれしかないです。
いきます。」
出血が多い場合、止血しても縫合した穴から噴き出すことだってある。
しかしそれをわかっていて、Aは迫縫合にし、子宮を残す事を考えていた。
「...」
出血は２０００を超える。
輸血はされているが、もしこれ以上出血が増えようものなら、島の血液製剤が足りないことの重大さに直面することになる。
ここはペルソナじゃないんだぞ。
そう言いたげな周りの医者を差し置いて、Aは子宮に手を伸ばし、圧迫止血を続けた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「...あれ?」
Aが上体を起こしたのは夕方の医局だった。
きっとまた泥のように疲れて眠ったのだろう。
それにしてもいまだかつて半袖短パンの執刀医がいたものか。
「“起きたか眠り姫”」
小さな紙切れを丸めて投げてきたのは叶先生で、
私が中を読むと嬉しそうに笑って親指を立てた。
「“ナイスだったぜ”」
そう口パクで笑うとスキップをしてどこかに行ってしまう。
あの後生まれた赤ん坊はしっかり産声を上げ、異常も見られず、新生児科への入院は必要なさそうだった。
心拍も安定し、自発呼吸もしっかりとしていて、サイズも申し分ないほど大きくなっていた。
姉は意識が戻り、
「...」
グシャグシャと髪を掻き乱し、ソファの上で大きすぎるため息をつく。
私はできることはリスクを冒してでもするタイプだ。
それはこの病院の医師たちが一番わかっているようで、私を腫れ物のように扱い、寄り付かない人だっている。
“ここはペルソナじゃないんだぞ、”
いつしか言われたことが頭の中を反芻する様な気分だった。
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作者名：長官 | 作成日時：2020年5月3日 17時
