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ガララッ、と、聞き慣れた音がする。
それは、お客さんが入ってきた時の合図だ。
「いらっしゃいませー!」
「あらAちゃん、今日もかわいいわねえ」
「そ、そんな…!えへ、ありがとうございます」
どうぞこちらの席へ、と、入ってきたおばあちゃんを案内する。
今日も今日とて、元気にお客さんを招き入れる。
それが私、Aの仕事だ。
ここは、小さな茶屋。
私は5歳くらいの小さい時から、ここの看板娘をしている。
場所が町外れにあるせいなのか、来るお客さんの数はまばらだけれど、両親が一生懸命営んできたお店なので、私はこのお店に愛着を持っていた。
食器棚から湯のみを取り出して、お茶を注ぎ、カウンター席に座ったおばあちゃんへ差し出す。
ありがとうねえ、とおばあちゃんは嬉しそうにした。
このおばあちゃんは、私が小さかった頃からよくこのお店に来てくれている、数少ない……いや、たった一人と言ってもいい常連さんだ。
「Aちゃん、今日もひとりかい??大変だねえ」
「いえいえ、そんな……私、元気ですから」
「そうかい?」
ふぅふぅと息で冷ましながら、おばあちゃんはゆっくりとお茶を飲む。
私はふと、カウンターに置いてある写真立てを見やる。
そこには、幼い時の私と、父と母の、幸せそうな3人が写っていた。
ふと何かがこみ上げてしまいそうになり、慌てて唇をきゅっと噛んだ。
――このお店を経営していた私の両親ふたりは、3年前、他界した。
先に父が腎不全で亡くなり、そのあと間もなく後を追うように、母も。
母は病ではなく、寿命なのだと、医師は言っていた。
二人ともあまりにも短命だった。
そして、兄弟もいなかった私は、ひとりでこのお店を引き継ぐことになったのだった。
私はまだ子どもだったので、名目上、両親の代わりは叔母さんが勤める、ということになっていた……が、遊び呆けてばかりの人なので、3ヶ月に1度、このお店には、帰ってくるか来ないかといったところだ。
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あずきいろ
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作者名:黒崎クロエ | 作成日時:2019年1月12日 17時