Summer time Days！2【wrwrd】【all】【合作短編集】 (ページ9)

今日:19 hit、昨日:0 hit、合計:6,644 hit

闇夜に耽る em ページ9

『夏祭り行こうよ！』
と、誘われたのが3日前のこと。

待ち合わせ場所に着き、後は彼女が来ればいいだけとなったのだが、急用が入り来れなくなったと連絡が来たのが、10分ほど前だった。

───夏祭りは嫌いだ。

そんな事を口にすれば、親や友達には何故？と言った顔をされるけど。
でも、嫌なのだ。人は溢れんばかりにひしめき合うし、何よりも痴漢のリスクも増える。
だが、そんな事よりも嫌だったのは、人に紛れて人ならざるものがうじゃうじゃ居るのが嫌だった。

「はぁ………。食べ物を少し買って帰ろう。」

憂鬱な気分になりそうになるのを、押さえつけ、せめて夏祭りらしいことをしようと、
出店の出ている方向に足を向ける。

りんご飴、射的、かき氷屋さん、お面売り
赤い色の宝石に、冷たい氷菓子、人とそうで無い者達との境界線を無くすお面。

一般的な人と見える物が違う私は、どれもこれも魅力的には映らなかった。
あぁ、でも。夏祭りの日にだけ見れる白と蒼の淡い蝶々は綺麗だったな。
と、思い出す。幼少時代に1度だけ、普通の人のように見えた、人ならず者。

あの人、今はどうしているだろうか？
ミルクティー色の髪の毛、オパール色の瞳、鬼灯の描かれた狐面と、白と鷲色の着物。
柔らかい笑みを浮かべて、嬉々としてイカ焼きを食べていたあの人。

物思いに耽(ふけ)ていたからか、前から来た人とぶつかってしまった。

「すみません！ボーッと、していて。」

勢いよく頭を振り被り謝罪する。

『お久しぶりですね。Aさん！
夏祭りの嫌いな貴女をこの時期に見れるとは。
ふふっ。長生きしていると良い事がありますね。』

ふわり、聞き覚えのある声に顔を上げると、
正に、つい先程まで考えていたその人がいた。

『ふふ。折角、滅多に来ないAさんが、ここに来たんですから、私と一緒に回りませんか？』

「良いですよ。」

エーミール、と言っただろうか。
彼はなんでも、この地域一帯を護ってくれている土地神の稲荷大明神なのだそう。
名前は如何にも西洋の方にありそうな名前だけれど。
そんな彼の手には記憶と相違なくイカ焼きが握られているし、顔から少し横にずらして付けられている狐面もあの日と変わらない。