Summer time Days！2【wrwrd】【all】【合作短編集】 (ページ12)

今日:20 hit、昨日:0 hit、合計:6,645 hit

. ページ12

▽
私が素直な感想を伝えれば、エーミールさんは隣で良かったと、小さく零した。
人の寄り付かないこの場所は、花火を見るには丁度いい。

『ねぇ、Aさん。
この稲荷神社が土地神だと言う話はしたと思いますが、もう1つの話を知っていますか？』

「…………？もう1つの話、ですか。」

『そうです。もう1つの言い伝え、ですよ。』

少し思案するも、私の記憶において、
この神社にその様な言い伝えがあった記憶はなく、聞いた記憶も無くて頭(かぶり)を振る。

『そうですか。ねぇ、Aさん。
此処に、人ってあまり寄り付きませんよね？
変だと思いませんか？』

「……？まあ、土地神なのに人が寄り付かないのは気になりますが、それはこれが夜だから…で…、」

言いかけて、言葉を飲み込む。
確かに。言われてみれば可笑しいのだ。
この神社に続く石畳と階段以外の道はあまり整備されておらず、獣道に近かった。

あれ？そう考えてみると可笑しい。辻褄が合わない。何故、土地神である彼の神社までの道があんなに荒れ果てていたのだろうか？
それどころか、鬱蒼としていて月の光も届きにくいこの場所は、まるで…まるで。

『ねぇ、Aさん。今更、ですか？』

最終的な答えを出すより早く、エーミールさんは私に声を掛ける。隣を向くのが怖い。

『ねぇ、Aさんこっちを向いてくださいよ。』

甘い、猫撫で声。聞き慣れた柔らかい声。
そっと、隣に目線を移せば、至近距離に彼の顔がある。
鬼灯の描かれた狐面と、白と鷲色の着物。
ミルクティー色の髪の毛と、オパール色の瞳。
10年前に見掛けた彼と変わりない、はずなのに。

その瞳の奥には、ドロリ、と暗く甘い欲が合間見えている。
瞳に光が灯っていないし、口元には歪んだ弧がたたえられており、するりと私の頬を撫でる彼の手は酷く冷たい。

『ふふ。稲荷様との約束は破ってはイケナイんですよ。ねぇ？Aさん。
10年という長い月日を私は待ったのに、貴女は1度も此処には来てくれなかった。』

「約束？エーミールさん？
何を、な、にを……？」

ガツン、と。
頭を鈍器で殴られた様な衝撃が走る。
この、男との約束？そんなの、そんなのした覚えが…。

『10年前の祭りの時、貴女はご両親とはぐれて、
私の社に迷い込んでしまいましたよね。』