355 シンクロニシティ・イン・シティ ページ15
「ライゼン、＿＿来善……！」
違う。私は、花綺更 来善じゃない。
そう否定するよりも、先に。
それどころか、拒絶が私の表面に現れる前に。
きらきらとほのかに涙ぐんだ青い目が隕石のように、それはもうあっという間に私の傍に迫ってきていて、勢い任せに大きな掌に肩を掴まれた。
「会いたかった……ずっと探していたんだ、君を」
頭が、何だか上手く回らない。
「顔立ちは、あまり来善とは似ていない。だが」
それならこの場から逃げ出せばいいのに、それすらも思考から抜け落ちてしまって、何も言えずに目の前の知らない男性の訴えを聞いていた。
ちゃんと聞けていたのかも、分からない。
「この綺麗な目は、あの人と一緒だ」
でもその人は私を透かして
途端に、ぶくりと泡のように不快感が吹き出したことだけは、分かってしまった。
ぐしゃぐしゃの感情に揺さぶられるまま、叫び出す直前。
やや乱暴なんじゃないかってくらいの力で、腕を引かれる。
「その子から、離れて」
先程駆け付けて来たのが見えた、悠馬と西蔭さんだ。
2人は私を守りでもするみたいに、間に割り込んで私を背後に隠してくれた。
その少しの隙に、必死に息を整えようと、した。
父親を知るという彼は、冷静さを取り戻したのか、少し弱気な表情に変わる。
「すまない、警戒させてしまって……でも、私は来善の、君の父親の」
「そういう話なら、尚更構わないで。この子の父親は、もう＿＿！」
「＿＿っ、悠馬！」
自分でも、こんな大きな声が出せたのか、と。
怒鳴る、というのにも近かったと思う。
「……言わないで、悠馬…」
熱を持って、痛みを伴って、騒ぐ心音。
それにひっそりと紛れて、悠馬の“ごめん”という掠れた声が、微かに聞こえた。
望まずとも、私が連れて来た沈黙の中。
悠馬が私の手を引くのを、つまりは私達がここから立ち去ろうとしたのを察知したのか、縋るように彼は悠馬の方を見ていた。
「来善に、何かあったのか。君は何か、知っているのか？」
「知ってたって、言わない。……ほら、もう宿舎に戻ろう」
手を引かれるまま駆け出した、私に。
A、と。
今呼ばれたのは確かに、私の名前だった。
「君と話がしたい。また、会いたいんだ」
＿＿会えないよ。
絶対、会わせるもんか。
誰にも聞こえないように呟いたつもりだろうけれど、私の耳には、悠馬の静かな嫌悪が届いてしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 424人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：三峰 契 | 作成日時：2022年3月31日 19時
