episode328 ページ37
「……これを偶然と片付けていいものかな。壮行会のゲストに招かれたのが、初戦で当たるスペイン代表というのは、流石に出来すぎだと思うけど」
パーティ会場であるホールに戻ると、先程よりも少しぴりついた空気で満たされているのが、風に冷やされた皮膚越しに伝わった。
その場から動き出すことも憚られる雰囲気だというのに、光くんと私の姿を見つけて、足音を殺しながら此方へと駆け寄ってきた悠馬と、それを追った西蔭さん。
「A。どこに行ってたの」
「まぁ、ちょっとね。後で話すよ」
ここで身震いをしてしまったのは、気温差のせいか。
それとも、妙に嫌な予感がしたせいか。
「……オリオン財団に反旗を翻す我々を、この場で引き合わせたという訳か」
「その通りだよ、クラリオ君」
冷たい夜風の感覚が、ぶわり、と素肌に蘇ってくるように。
地を這うような、指先にまでよく響く声が、電波に乗せられてホール全体に広がった。
「……ギリカナン、理事長…！」
「ギリカナン理事長って、……あの人が、ベルナルド・ギリカナン…？」
少し安心を見せていた光くんの表情が、再び強ばる。
いや、新条さんの前よりも、強く絶望の色が強く滲んでいた。
その表情で、見て分かるようなものなのに。
思わず聞き返した私は、以前見たニュース記事を思い出していた。
＿＿オリオン財団理事長、逝去。
＿＿長男のベルナルド・ギリカナン氏が理事を相続。
「我々オリオン財団が目指すのは、全てがルールで統一された“パーフェクトワールド”。君達もルールに従ってほしいものだ……このまま我々に従わなければ、君達は全てを失うことになるだろう」
話が頭に入ってきているのか、自信が無い。
でもそれは、後で悠馬にでも聞けばいい、と、目の前の疑問点から目を逸らさずにいた。
前理事の顔写真は記事に載っていたけれど、せいぜい50代＿＿どれだけ年配だと想定しても60代。そのくらいだ。
でもモニターに映る男性は、それよりも年配に見える。
(前理事の長男……でも、年齢が合わない…？)
今すぐあの記事を読み返して、どちらが真実なのかを見定めたい。
でも、私の思考を少しでもこの場で留めるようにと、流れ続ける時間はその話ばかりを進めてしまうのだ。
「ギリカナンが望む、“パーフェクトワールド”。それが実現したら、世界経済に大きな利益をもたらすことになるでしょう。しかし、その時サッカーは＿＿いえ、スポーツの世界は、光を失うことになってしまうのです」
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年9月10日 19時
