309 麗乙女は立ち止まらない ページ18
「分析の為に、これまでの試合の映像は見ていましたけど……！」
「……実際に見ると、とんでもないね」
先程の光くんと悠馬の会話を反芻しながら、ボールの行方を目で追っていた。
＿＿親分と俺はこれまで、中国代表を勝利に導く為に、一番近くからお前達を調査していたのさ。……親分、俺達は全力でイナズマジャパンを、叩き潰しますよ。
(態度だけじゃないんだな、やっぱり)
全選手、見事に弱点が見抜かれている。
攻めあぐねている、それどころか防衛戦すらもままならない。じりじり、体力を削がれていくように追い詰められている。お手本みたいな、ジリ貧。
そして、円堂先輩＿＿最後の砦までも、攻略済。
ラインの後ろで、ぽん、と跳ねたボール。
そこからの打開策、久遠監督の指示。三本の矢。
選手交代で、フィールドプレイヤーとして砂木沼先輩と西蔭さんがディフェンダー、円堂先輩の両脇を固めるようにポジションを置く。
「Aちゃん＿＿Aちゃん」
「ん……どうしたの、光くん」
ぶっつけ本番のフォーメーション。
すぐにまとまる訳がない。思わず心配でゴールを振り返れば、同じ方向を向いていた光くんが私の隣に並んだ。
でも光くんの視線が向けられているのは、ゴールを守る3人、というよりは。
「野坂さん、ゴールのとこまで下がっちゃったよ。ここから、どうしようか」
＿＿未完成の技、隙をすり抜けて降らせるシュート。
これ以上の点数を許さないと、フォローに回った悠馬の姿。
指揮官の欠けたチーム。
鬼道先輩が不在で、悠馬が帰ってくるまでの、あの絶望的な状況の再来。
その中で、あの状況と違うことといえば。
「そうだね……あいつの指揮まで読まれている以上、悠馬も裏で次の策を練りに行くんだと思うよ。私達はどうしようか」
「これまでの試合や練習、全てのプレイが見られてるってことは……久遠監督の指示みたいに、ぶっつけ本番＿＿相手の想定外、っていうのが、この試合の攻略の鍵？」
光くんが私の、このチームの味方になったこと。
あの時の屈辱を、ここで覆せるかもしれない。
「そういうこと。今、ひとつだけ策がある。堅実なやり方じゃない、まともなやり方じゃない。通用するのも、一度きり」
此方へと飛んだボールを、トラップで受ける。
説明するだけの暇も無さそうだ。
「それでも、やってみたい？」
情報が知られている以上、その情報以上の成果をこの場で出さなくちゃ、詰みになる。
「うん。いいよ、やってみよう」
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年9月10日 19時
