episode250 ページ8
「そんな顔しても、私、君のこと慰めてあげないよ」
別に、私は君と違って自己犠牲を働いたつもりはない。
一星くん達のことも傷付けた自覚はあるし、私が傷付けば、私が傷付いたという理由で悠馬も同じように傷付く。
そのことを、覚悟で。
というと、正当化しているみたいだ、撤回。
(そのことを、知りながらも。＿＿とでも、言ってみようか？)
「ねぇ、悠馬。今の君がすべきなのは、私を憐れむことなのかな？それは違うんじゃないの。どうせ私が思い通りになってくれないなんて、君は既に分かりきっていたことでしょ」
それはおおよそ、子供じみた屁理屈。
そこに内包されたのは、1ミリグラムにも満たない、飲み込む違和感すら曖昧に思えるような、歪な自論。
中途半端に言いくるめられそうになる悠馬は、呼吸が少し狂ってしまった口元に触れながら。
深刻そうな顔は、先程から変わらない。心配、不満、憂鬱。灰色の中で緩やかに混ざり合った、何とも言えない目が私を優しく咎める。
「そう落ち込まないでよ。誰も傷付かない方法って、まだあるじゃない。一星くん達を組織から救い出せば、私の話が組織に晒されることもない」
あえて明るく、裏を返せば神経を逆撫でるように。
立てた人差し指をくるくると回して、淀んだ視線を誘う。
「……じゃあ今この時、一星君が組織に話しているって可能性は考えなかったの」
「おや。ようやく怒る気になったかな」
「違う、僕は怒らないってば……でも、怖いんだよ、もし君に何かあったら、って」
「それは考えなかった訳じゃないよ、ただあの子は今、迷っているところ。一星充くんには“何を犠牲にしても、弟の為”っていう揺るぎない正義があったんだけれど」
視線を絡めた指先で、コップの縁をとんとつつく。
なみなみと注がれていた透明な中身が、不規則にゆらりゆらり、揺れる。
「その決め手を、私が揺らして来た。悪く言えば、一星充くんの今までの血を吐くような努力を、真っ向から否定してやったってこと」
自慢げに、最低なことを言って。
ざわついたまま心臓を強引にいなすように、左胸を押さえ付けた。走る心音に必死で追いつこうと、躊躇う隙を与えず声を繋ぐ。
「足りないピースは、あとひとつ。ふたりの記憶にも深く関わる、サッカー。もしもう一度、充くんと光くんが向き合うことが出来れば」
「……まさか、一星君を説得するのに、次の試合を利用するつもり？」
その質問に頷く代わりに、私はすっと目を細めた。
episode251 Side Y→←episode249 Side M＿＿Shortly before
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三峰 契(プロフ) - 琥珀恋歌さん» お返事お待たせしてしまい申し訳ありません…！現在本編に集中する為、スピンオフの方は更新をお休みさせて頂いております。更新再開時にまたパスワードを公開する予定です！ (2021年4月2日 23時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
琥珀恋歌(プロフ) - スピンオフのパスワード教えてください！ (2021年3月18日 13時) (レス) id: a29e155f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年2月27日 18時
