episode249 Side M＿＿Shortly before ページ7
「じゃあ、Aはさ。……自分の兄貴のこと、恨んでる？」
こうして聞くのは、怖かった。
もし、“そうだよ”、なんて笑われたら、そのあどけない顔の悪夢に取り憑かれてしまうと思ったから。
しかしAは、想像を優しく、そっけなく裏切っていく。
どこか追い詰めたような表情と、ぼんやりと輪郭のぼやけた声。
「恨んでないよ。……恨めない」
俺としては、顔に出しているつもりはなかったけど、僅かに肩から力が抜けるのが分かった。
目敏いAのことだ、それにも気付いているんだろう。いつもの皮肉屋な仮面を被り直して、口元を歪めて自嘲的に笑ってみせるのだ。
「きょうだいって、そういうものじゃない？例え誰から恨まれても、誰からも恨まれないといけないようなことをしても、私だけは、って思っちゃうんだ」
Aがそう言うように、俺の弟だって、そうなんだろうか。
光がどう思うかなんてことも考えずに勝手に重ねた俺の苦しみを、光は受け止めてくれるんだろうか。
「むしろ恨まれないといけないのは兄じゃなくて、私の方。兄を死まで追い詰めたサッカーを、私はあの頃からずっと好きでいて、今も続けているんだから」
すぐ傍にいるはずなのに、Aの目はどこか遠くを見ている。
“聡眼”と呼ばれたその目にも届かないような、遥か彼方を。
「ねぇ、充くん。君はサッカー、好き？」
「分かんない、……今は分かんないんだよ…」
俺はもう、見失ってしまった気持ち。
Aは今、どんな思いで、その“好き”を貫こうとしているの。
「幸せだったはずの記憶に、ずっと縛られてるんだ。そこに戻りたいって足掻けば足掻く程、遠ざかっていく」
もう、放っておいてくれよ。
俺なんかに、構わないで。
＿＿兄ちゃん。
それは、これだけ複雑に絡んだ思考を飛び越えたように零れた。まるで、光が俺を呼ぶような声。
どうしてそんな言葉が出てきたのか、分からない。
「光……？」
ここにいるのは光じゃない、Aだ。
なのに、なんで？ぐしゃぐしゃ、頭を抱える。
「……分かったよ。君に必要なのは、私みたいな他人なんかの言葉じゃなくて、光くんの言葉なんだよね」
Aは静かに此方を見つめながら、テーブルに置かれていたスマホを俺に差し出した。
＿＿“不安が消えるまで、思う存分君の手で証拠を隠滅すればいいよ”。
話は、まだ終わってない。
なのにAは、それを知った上で、話を切るように。
「私の我儘に付き合ってくれて、ありがとうね」
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三峰 契(プロフ) - 琥珀恋歌さん» お返事お待たせしてしまい申し訳ありません…！現在本編に集中する為、スピンオフの方は更新をお休みさせて頂いております。更新再開時にまたパスワードを公開する予定です！ (2021年4月2日 23時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
琥珀恋歌(プロフ) - スピンオフのパスワード教えてください！ (2021年3月18日 13時) (レス) id: a29e155f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年2月27日 18時
