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逃げ出してしまいたい。ヌナの手を引いてここから消えてしまいたい。
ただヌナの手を握って、そんな身勝手な言葉に耳を貸さないで、僕たちと、ヌナを愛してくれる人の声だけ聞いてよと言いたかった。


何がかわいそうだ。僕たちの立場に立ったような言い方をして、本当はただのわがままじゃないか。

趣味嗜好は違って当然だし、嫌だと思う人も沢山いるのかもしれないけど、それを本人に向かって、「かわいそう」な存在だとくくった僕たちの大好きな人に向かって言うのは違うでしょ。


『スングァナ、大丈夫?』
『あっごめんなさい、えっと…』


いつのまにか力がこもってしまっていたペンを握り直して、貼り付けられた付箋に目を通す。

やってしまった。アイドル何年目だよ。

僕の今1番大事な人は、目の前のボノニのペンの方だ。


Q.最近のバーノンとのTMI
◽ご飯を食べた
◽ショッピング
◽映画
◽その他


1番上にチェックをつけて、カフェに行きましたと付け加えておく。


『2人で何食べたの?』
『サラダボール食べました。ボノニはシュガートーストみたいなのも食べてましたけど…』
『スングァニは食べなかったんだね』
『よくご存じで〜』


努めて明るく振る舞うと、ボノニペンのヌナの心配そうな表情は和らいだ。
ボノニと話していた方が横にずれたのを見て、アンニョン、と手を振るとヌナはあっという間に横に行ってしまった。僕がしてあげられなかった分までボノニと楽しんでくれますように。


隣でサインを書いていたヌナはどうなったんだろうか。

結局そのあと、ヌナとあの人がどういう話をしたかも知らなければ、僕のところに来たあの人とどういう話をしたかもあまり覚えていなかった。

.→←あるサイン会の話



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作者名:cham | 作成日時:2021年2月2日 0時

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